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立浪和義の超野球論

「セ・リーグ新人王の行方」/立浪和義コラム

 

9勝目を挙げ、現時点では一歩リードした広島・森下/写真=大賀章好


驚くべき完成度の高さ


 10月24日のDeNA戦(横浜)で広島の新人右腕・森下暢仁選手が1失点完投勝利を飾り、しかも決勝打も自身で記録しています。これで9勝3敗とし、10勝に王手。防御率2.04は中日大野雄大選手に次ぐ2位と非常に安定しています(成績は10月26日現在)。

 一言でいえば、非常に完成度が高い投手ですね。独特のフォームからの角度のある真っすぐは速く、制球力がいい。変化球はカーブ、カットボール、チェンジアップとあり、いずれも威力があり、スローカーブがいいアクセントになっています。あそこまで球速差があると、バッターは狙っていないとタイミングが合いません。

 真っすぐ、変化球で左右のコーナー、緩急もうまく使い、組み立てが巧みな投手です。正直な話、昨年まで大学生がよく打っていたな、と不思議になるくらいです。

 ただ、新人王レースとなると、もう一人、巨人戸郷翔征選手もいます。こちらは8勝5敗。2年目ですが、高卒でまだ20歳です。彼の武器はとにかく真っすぐ。腕を下げた、やや変則のフォームからの真っすぐで打者を圧倒し、そこにカットボール、スプリットを交えてきます。制球的には、決して四隅にビシビシ来るわけではありませんが、適度に荒れながら投手有利なカウントをつくっています。

 腕を下げるタイプは左打者攻略がカギとも言われますが、外寄りのスプリットを効果的に使いながら、被打率は右が.198、左が.238と、さほど苦にしているわけではありません。彼の場合、打者目線で見ると、変化球でも腕の振りが緩まないのが最大の強みではないかと思います。

 やや調子の波はありますが、8月の4勝、防御率0.38は圧巻でした。

オフのケアをしっかり


 2人のどちらが新人王に近いかと言えば、現時点では勝ち星の多い森下選手かもしれませんが、優勝争いに食い込めなかったカープに対し、戸郷選手には優勝への貢献というプラス材料があります。投票なのでどうなるかは分かりませんが、勝ち星で並べば、戸郷選手、上回れば森下選手という感じでしょうか。

 ただ、私は来季の2人、特に森下選手に不安があります。今は新人ですし、新人王という目標もあるので、若さに任せガムシャラに飛ばしていますが、アマチュアでは、プロのように長期間投げ続けるわけでもなく、知らず知らずのうちに疲労が蓄積しているはずです。

 私は投手出身ではありませんので、細かいメカニズムまでは分かりませんが、特に球持ちがよく、腕をしならせるタイプの選手は1年目に活躍しても、2年目が続かない傾向があります。シーズン中はチームのトレーナーがしっかりケアしてくれているとは思いますが、それでも前述のように、自覚のない疲労がかなりたまっていると思います。これからのオフは例年より短くなってしまいますし、1年目を終え、課題克服のために試してみたいこともたくさんあると思いますが、まずはしっかり休養し、疲労をしっかり取ってほしいな、と思います。

『週刊ベースボール』2020年11月9日号(10月29日発売)より

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