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廣岡達朗コラム

巨人連覇、勝てばいいというものではない/廣岡達朗コラム

 

水原、川上監督なら絶対にやらない


本塁打を放った丸をベンチで迎える原監督(10月28日、DeNA巨人


 巨人が連覇を果たした。勝てばいいというものではない。ゴール目前は優勝するチームとは思えなかった。内野手の増田大輝を外野で起用してエラー。一芸に秀でた選手を部分的に都合よく使ってきたから、こういうプレーが起こる。プロとして全力を尽くしてやらないのは観客に失礼。最後はマジック対象チームが負けて優勝が転がり込んできたようなものだった。

 打線の中で優勝慣れしている丸佳浩が気を吐いていたが、丸が巨人の柱になったらどうなるのだ。V9は長嶋茂雄王貞治がいて初めて成り立っていた。極端にいえば、いまはONが七番、八番を打っているようなもの。生え抜きが脇役に甘んじている。丸がホームランを打ったら、ベンチは両腕でマル印を作って出迎えるが、監督まで選手と同じ調子でポーズを取っている。あんなことは水原茂監督、川上哲治監督だったら絶対にやらない。

 今季のセ・リーグを振り返ると、チームにリーダーがいない。本来は、年季が入っていて他球団ににらみを利かせられる存在が四番を張るべきだ。それが私の持論である。ところが、素材がいい、打てるからという理由で巨人・岡本和真ヤクルト村上宗隆、DeNA・佐野恵太と、若い選手が四番を打っている。彼らは三番、五番を打たせればもっと打つ。そして30歳ぐらいで心身ともにピークを迎えるときに、「君はウチの宝だ」と絶対的四番として君臨させるべきなのだ。やがて年齢とともに結果が出なくなってきたら、それも自然の原理。人間は生まれたら死ぬ。そこをいまの若い指導者は実感できていない。

 選手のほうでも阪神福留孝介が現役に未練を抱いている。それは人それぞれだ。しかし、あと何年できるというのか。鳥谷敬ロッテに行ったがレギュラーにはなれていない。惜しまれて去ることに、値打ちがあるのではないか。

 中日は終盤にいい戦いをしていた。人間は目的があると想像を超えた強さを発揮する。中日がなぜ頑張っているかといえばAクラス入りという確かな目的があるからだ。7年連続Bクラスに沈んできた。Aクラスになって次は優勝。物事には順序がある。最下位のチームが翌年に優勝を目指すというバカな話はない。監督を代えたから優勝? 順序というものが欠落しているから、やればできるという人の値打ちも分からない。

 一方、DeNAはラミレス監督の辞任が決まった。5年も指揮を執って、昨季までAクラス3回とはいえ、優勝はしていない。どこかに欠陥があるのだ。優勝していない監督はダメだという評価をはっきりと下さないから、采配を振るう上で妥協してしまう。

組織としてまとまっているから選手が育つ


 パ・リーグを制したソフトバンクには王貞治という人間がいて、指揮官は私が教えた工藤公康監督だ。組織としてまとまっているから選手が育つ。内川聖一は最前線から外れた。主力がいなくなっても、新戦力を育てる自信が球団にあるのだ。投手陣も強力だが、捕手の甲斐拓也が良いリードをしていると私は見ている。肩が強いだけではない。投手の良さを引き出して抑えている。実際に他球団がソフトバンクの投手を獲得して働くかといえば、そうとは限らない。捕手の一番の使命は、その投手を生かすことなのだ。

 ソフトバンクが日本シリーズに出てきて巨人と再び相まみえれば、圧倒的に有利なのは間違いない。去年の4連勝の再現もあり得る。

 
『週刊ベースボール』2020年11月16日号(11月4日発売)より

廣岡達朗(ひろおか・たつろう)
1932年2月9日生まれ。広島県出身。呉三津田高、早大を経て54年に巨人入団。大型遊撃手として新人王に輝くなど活躍。66年に引退。広島、ヤクルトのコーチを経て76年シーズン途中にヤクルト監督に就任。78年、球団初のリーグ制覇、日本一に導く。82年の西武監督就任1年目から2年連続日本一。4年間で3度優勝という偉業を残し85年限りで退団。92年野球殿堂入り。

写真=BBM

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