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立浪和義の超野球論

立浪和義コラム「精密機械・吉見一起選手の引退」

 

通算89勝だが、69勝は08年から5年で稼いだ


圧巻の制球力


 また一人、ともに戦ったドラゴンズの選手が、ユニフォームを脱ぐ決断をしました。

 2006年に入団し、私の中日での現役最終年09年に16勝を挙げ、最多勝となった吉見一起選手です。08年から5年連続2ケタ勝利でドラゴンズの黄金時代を支えました。11年には統一球の導入で投高打低となったシーズンではありましたが、18勝3敗、防御率1.65と圧巻の成績を残しています。

 印象的だったのは制球力です。精密機械とも言われましたが、真っすぐだけでなく、変化球の制球力もよく、すべてを低めに集め、1球1球丁寧に投げていました。しかも、どの球種も真っすぐと変わらないフォームで投げ込むので、バッターはかなり打ちにくかったと思います。

 しかし、ヒジの故障で手術を受けたこともあり、13年以降は球威が落ち、苦しいシーズンが続きました。何度か「戻ってきたかな」と思ったこともありましたが、故障の再発などがあり、なかなか長続きしませんでした。研究熱心なタイプでもあり最後まで投球術もいろいろ工夫していたようですが、やはりスピードが落ちたことが痛かったですね。

 全盛期の吉見選手は、スピードガンの表示ではそれほどではありませんが、ボールにキレがあり、打者が差し込まれる真っすぐを投げていました。ピッチャーはスピードがすべてではありませんが、吉見選手は緩急というより、低めへの制球力で勝負するタイプだったこともあり、球速が落ちたとき、より苦労したようにも思います。

 制球力勝負は、ある程度、スピードがあってこその部分があります。球威があれば、甘い球でも打ち損じてくれることが多いので、ここぞのときの制球力も光る。ただ、球威がなくなると、少し甘くなるとやられますし、打者もなかなか際どいボール球には手を出してくれなくなります。結果的には、さらにコースを厳しく狙って投球が窮屈になり、球数が増えたり、フォアボールが増えるという悪循環になってしまいがちです。

指導者として期待


 今年も菅野智之選手のようにひねるフォームに変えたり、いろいろ試行錯誤をしていたようです。体が万全になり、球威がもう少し戻ればまだやれたようにも思いましたし、引退を聞いたときは「もったいな」とも感じました。本人も故障で不完全燃焼の思いもあったと思いますが、引退を決めた後でもらった電話では「やり切りました」という話をしていました。

 まだ36歳ですし、これからの人生はまだまだ長い。彼のピッチングの技術は若手の参考になると思いますし、現役時代、強いドラゴンズの中で、たくさんのいい経験をしたと思います。これからはそれを若手に伝えていく指導者としての活躍を期待したいと思います。お疲れ様です。

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