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男たちの再挑戦 戦力外通告とこれから

近藤一樹[ヤクルト/投手/37歳] 俺はまだやれる! 胸中激白インタビュー

 

ユニフォームを脱ぐ選択を迫られながらそれでもなお、現役続行の道を探る男たち――。まずはその中の一人、近藤一樹が、素直な気持ちを語ってくれた。
取材・構成=依田真衣子 写真=BBM

今季は20試合に登板し、防御率4.74。確かに好成績を残したとは言いがたいが……


突然の戦力外通告


――10月下旬、戦力外通告を受けましたが、現役続行の道を探っていくそうですね。

近藤 これを言うと、「近藤甘いな」って思われてしまうかもしれませんが、今年はつまずいている感じがありながらも、自分の中では原因や解決策をつかみかけていたんです。どこかがすごく悪くて、体がまったく動かないとかではなかったんですよ。自分の感覚や感触が紙一重でズレていた。まあ、そこを一致させるのがプロなんですけど、苦戦したその部分を、来季は修正できる自信がありました。そう考えていた中での宣告だったので、まだ気持ちの切り替えも全然できていないんです。

――来年のビジョンを描いていたのに、それが叶わなくなったショックというのは、相当なものなのではないでしょうか。

近藤 ショックでしたね。実は今まで僕、オフシーズンに向かっていく中で何度も“死んでる”んですよ。「今年はケガもしてるしダメだろうな」という年でも、時間をくれる契約をしてくれるとか、全然仕事ができていないのに契約は更新されるとか。自分の中では何度も“死んでる”んですけど、ここまで何とか生き延びてきて。だけど、今回は本格的な戦力外だったので、かなりショックでした。

――戦力外通告を受けるかもしれない、という前兆は、感じていなかったんですね。

近藤 そうですね。心の準備ができる1年だったら、また違った選択もあったと思うんです。ケガをしていたとか動けないとか、使われることが減っていくとか。そんな中だったら、「今年で区切りが来るかな」という覚悟がだんだんと決まっていくんでしょうけど、そういう兆しもまったくなかったので。まあ、年齢も年齢なので、そろそろ……ってところではあると思うんですけど、僕の中で、心の準備をする1年を送ることはできませんでした。

――一軍で20試合に登板していましたからね。

近藤 今年に関しては、構想外だと言われる気がしなかったですし、そういう気配もなかったので。心の準備をする時間もなく、ただ悔いだけが残っています。いずれにせよ、いつか現役に終わりは来ますし、それが遅いか早いか、このタイミングかどうか、っていうだけの話なんですけど。でも、一番動けるのも投げられるのも、今、そして来年だと思うので。現役続行という選択が、今は一番正しいと思っています。

――開幕直後こそ調子は上がらなかったものの、9月1日の阪神戦(甲子園)では、一死二、三塁で登板し後続を断つなど、好リリーフを見せました。

近藤 本格的に中継ぎを経験できたのはヤクルトが初めてなんですが、悪い中でも中継ぎのコツというか、毎日同じように準備していけば毎日投げられるコツ、リズム的なものを把握できるようになってきていたんです。なので、来年もチャンスをいただければ、同じようなリズムでできる手応えはあります。そう考えると、やっぱり、もうちょっと投げたいなと思うんですよね。

ヤクルトでは中継ぎとして力を発揮してきた。2018年には最優秀中継ぎ投手のタイトルを手にした


大きかったコロナの影響


――終盤には調子も上げていました。先ほど、今季序盤の不調の要因はつかんでいると話していましたが、原因は何ですか。

近藤 言い訳としては、みんな同じ条件なので、それが通用するとは思わないですけど、やっぱり、リズムが悪かったんですよ。キャンプ、オープン戦までは状態が良くて。開幕に向けてさらに調子を引き上げる準備もできていたんですが、そこからコロナの影響で開幕が延期になり、3カ月間の活動自粛期間になりました。ここで一旦フラットになった状態から、6月の開幕で持ち上げることができなかったんです。さらに、今までケアしてもらっていた施設にも行けていなくて。罹患してチームに迷惑を掛けるかも、と考えたら動けなかったですし、本来ならもっといろいろなことができたかなって思うんですよ。

――ノウハウも身につけ、不調の原因も把握している。まだまだ投げられるからこそ、現役を続けていきたいという思いは強いわけですね。

近藤 正直、すごく迷いましたよ。毎年が1年1年の勝負で、ダメならダメだという覚悟でやってはいたんですけど……。今年がダメだった事実も受け止めてはいるんですが、これで構想外というのは予想外でした。まあ、これだけチームに迷惑を掛けて、年齢も37歳ということを考えると、来年、今の僕がチームに必要ないのは間違いないと思います。それと同様に、ほかの11球団も僕を同じように評価しているんじゃないか、という点で、少し迷いが生じているのも正直な気持ちです。

――37歳は、必要ないですか。

近藤 今季は、世代交代をしていくタイミングなんだと感じました。若い選手が一気に台頭してきたので、先の短い僕に重要なポジションを任せるより、若い子に任せたほうが将来性もありますから。だとしても、やっぱり投げられるというところだけは、自分の中でまだ引っかかっていて。もっと追い込んでいきたいというか、あきらめられるタイミングが来るまでは挑戦し続けたいと思ったんです。

切り替えるためにも


――まだまだ若い人には負けたくない気持ちもあるのではないですか。

近藤 もちろん、心のどこかにありますよ。自分ではストイックにやってきたつもりなので、衰えていないはずです。まだまだ大丈夫、まだまだ投げられるっていうのは見せたいですよね。年を取ると、どうしても評価は低くなりますから。

――いえいえ、“まだ”37歳です。

近藤 この後の人生のほうが長いですし、やめたほうがいいのかな、とか思っちゃうんですけど。僕には何の選択肢もないので、やるしかない、やってやろうっていう気持ちです。何が正しいか分からないですし、どっちを選んでも、絶対に後悔するとも思うので。もし、どこかのチームからお話をいただけても、来年の今ごろ、また同じようなことを絶対考えていると思うんですよ。まあ、僕自身、野球をやめてからのプランを何も考えてないのは、間違いなく失敗の一つなんですけど(笑)。

――でも、先のことを考えない人のほうが多いですよ。

近藤 野球をやめたときのことなんて、考えられないっていうのは間違いなくありますよ。そのときが来ないと考えられない。野球をやりながらいろいろ考えてる、賢い人もいますけど。次に向かうビジョンがないと、ユニフォームを着続けられるチャンスを求めちゃうっていうのはあるでしょうね。

――現状の他球団の評価も分からないですし、今はただ、オファーを待つしかないですね。

近藤 そのオファーも、いつまで待てばいいのかも分からないですよね……。それに、いくら自分がやりたいと思っても、いらないと言われてしまえば、そこまでなので。

――確かに、自分の気持ちだけでは、どうすることもできないですからね……。

近藤 そうなんですよ。オファーがなければ、そこまでの評価だったということ。もし現役ができるなら、僕はもう、つなぎの1年とかで全然いいんですよ。ケガした誰かの代わりとかで。それでいいから、やりたい。やって、自分を切り替えたい。

――突然の宣告でしたからね。

近藤 そうですね。僕だけなのかな、まだ大丈夫だと思っていたのは(苦笑)。でもヤクルトでは、めちゃくちゃチャンスをいただいたので。オリックスからトレードで来て、中継ぎとしての自分を見い出せたので、感謝しているんですよ、本当に。たくさんのことを学べたし、ここで得たノウハウや技術を生かして、覚悟を決めてもう1年やれたらいいなって思います。その1年が次につながるシーズンになるかもしれないし、もうやめようって思うシーズンになるかもしれない。でも、どっちに転んでも、きっと切り替えられる1年になるはずなんですよ。ただそれ以上に、まだまだ投げられるので。

――あと2、3年は投げられる自信はある、と。

近藤 甘いですけどね。できると思います。

――でも、変な自信ではなく、根拠のある自信なわけですよね。

近藤 修正できる手応えも感じていますし、体も元気ですから。まだまだ投げられるから続けたい。ただ、その一心です。

【取材後記】ヤクルト担当・依田



 取材の最中、時折漏れる近藤選手の心の声に、力になれない歯がゆさを感じました。現役を続けたい意思はあっても、不安がぬぐえない様子。いろいろな選択肢について話しながら、「どうするのが正解なのか分からない……」と、終始心は揺れ動いていました。

 近藤選手の戦力外については、ファンの方々の反応も「まさか……」というものが多い気がします。カッコよくて優しくて正直な、みんなから愛された“近ちゃん”。「心の準備をする1年」は、近藤選手にも、ファンの方々にも必要なのだと感じました。じっくりと近藤選手の“ラスト”を見守りたいという思いは、われわれも同じ。あの舞うような投球フォームから繰り出されるストレート、鋭く曲がるスライダーを、また見たいなと強く思います。

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