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変化/進化を求めたチーム

【何が変わった?】ヤクルト・すべてに対する貪欲さと捕手陣の意識

 

新戦力の補強だけでは、チームは強くならない。積極的な補強を敢行したヤクルトは、現場の意識を変えることにも着手した。2年目を迎える高津スワローズが取り組んだ、意識改革とは。

「一年を通じて1点を守り抜き、取りにいく野球は続けていきたい」と高津臣吾監督


攻守で1点にこだわる


 2年連続最下位からの巻き返しへ、勝負の2021年シーズンが幕を開ける。就任2年目の高津臣吾監督は、チーム再建へ難しい舵取りを任せられる。オフはこちらのとおり、外国人選手の獲得など補強も進めたが、現場にはチーム内の改革、根本的なチーム力の向上が求められる。逆襲に向けて、指揮官は今春の沖縄・浦添キャンプ前、選手たちに3つの大きな目標を伝えた。

 まずは「ケガをしないこと」。昨季は、プレー中の負傷も含めて故障者が目立った。打線の軸である山田哲人は、上半身のコンディション不良で約4年ぶりの登録抹消を経験。開幕投手を務めた石川雅規に開幕先発ローテーション入りしたスアレス、捕手の中村悠平嶋基宏、外野手の塩見泰隆も途中離脱した。「われわれは人数が少ない分、みんなが良い状態でグラウンドに立って相手に向かって行く態勢をとりたい。誰かが一人欠けても戦力ダウンになる」。勝負をするにも、まずは戦力を整えてから。キャンプ中は、各選手の状態を見極めながら、メニューも調整。一軍メンバーは大きな故障者を出すこともなく、1カ月間を乗り切った。

 2つ目は「競争」だ。指揮官は「良い選手が残っていくのがこの世界。全員で競争して、全員で少ない枠を獲りにいってほしい」と求めた。ある程度レギュラーが決まっているポジションはあるが、捕手や遊撃手など各所で定位置争いが繰り広げられた。チーム内の競争が激化すれば、チーム力が上がるのは必然。指揮官は「競争は1年間。キャンプだけではない。シーズンが終わるまでみんなで競争してほしい」と年間を通したサバイバルを予告した。

 そして最後は「1点への意識を高めること」だ。指揮官は、何度も何度もその重要性を選手に説いてきた。

「最初に1点を取るか、取られるか。競ったときに1点を勝ち越すか、勝ち越されるかというギリギリのところで取っていくし、粘って無失点で抑える。一年を通じて1点を守り抜き、取りにいく野球は続けていきたい」。希薄になっていた1点への意識。野球は流れがあるだけに、1点が状況を変える。巻き返しへ向けての「高津野球」の根本であり、この意識が浸透して結果として表れれば、おのずと白星はついてくるはずだ。

新加入の内川。さまざまな相乗効果が見込める


 また、新戦力の存在もチーム力強化を後押しする。通算2171安打を誇る内川聖一が加入。若き主砲・村上宗隆の後を打つ五番打者としての期待も大きいが、後輩から「ウッチー」と慕われ、鉄板ネタの“あごタッチ”もOKするなどチームに明るい雰囲気をもたらしている。

 また、若手に助言を与えるなど、戦力以外でもチームに貢献。日米通算2478安打を誇る青木宣親もおり、若手はこぞって2人のアドバイスを仰ぎに行っている。

 ほかにもドラフト1位右腕の木澤尚文や同2位左腕の山野太一ら即戦力の新人選手も加わり、チーム内に新たな競争意識も生まれた。高津監督が「新入団の選手にはチームを覚醒させ、変えていくすごく大きな役割がある」と口にするように、新戦力の存在は浮上には欠かせない。

“古田効果”で捕手陣を底上げ


ブルペンでバッテリーに熱視線を送る古田氏(左奥)。捕手だけでなく、投手へもアドバイス


 さらに、指揮官は強力な“助っ人”を浦添に呼んだ。球団OBで元監督の古田敦也氏だ。臨時コーチとして招へいし、豊富な経験と知識を今のナインに伝えてもらうことを期待した。古田氏は、正捕手として90年代のヤクルト黄金期を支えたレジェンド。高津監督にとっても現役時代、長らくバッテリーを組んだ気心の知れる先輩だ。

 再建へ、最重要課題は一にも二にもバッテリー部門。昨季のチーム防御率4.61は2年連続で12球団ワーストと、2年連続最下位の大きな要因だ。古田氏はチーム宿舎で行ったバッテリーを対象としたミーティングで「ヤクルトはバッテリーが弱いと言われるので、逆に、お前らが上がればこのチームは上がる。見返そうぜ」と伝えたという。

春季キャンプでは、宿舎でも古田氏のミーティングが行われた[写真=球団提供]


 臨時コーチの期間中、最も時間をかけて指導したのが捕手陣だ。自身は10度のゴールデン・グラブ賞を受賞する名手でありながら、首位打者にも輝くなど“打てる捕手”として鳴らした。「捕手陣は打つほうもあまり良くないと言われているので、打って、守って、チームの主力になるつもりでやろうと。そういうメッセージは伝えました」。教えを受けた捕手陣の合言葉は、いつの間にか「俺たちで勝つ」になっていた。

 高津監督も常々「勝つことはそんなに簡単ではない」と口にするようにどん底からはい上がることは、容易ではない。ただ、「新戦力の加入」という外側からの新たな風と、「チーム内の改革」という内側からの土壌作りがうまくはまれば、必ず光は見えてくる。

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