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ヤクルト・小川淳司GMインタビュー 最下位脱出への本気度「全員が必ず、2年連続最下位に対する悔しさを持っています」

 

必ず最下位から抜け出し、上位を目指す──。2年連続最下位に沈んだヤクルトは、FA権を取得した3人の主力を残留させ、外国人の獲得やキャンプ後のトレードなど、積極的な補強を行った。チームリポートに続き、チーム編成の責任者、小川GMの思いに迫る。
取材・構成=依田真衣子


FA選手の残留は補強ではない


 やはり2年連続最下位に沈んだということで、それを回避するのが今シーズンの第一であり、最低限の目標となります。補強に対する考え方も、それを叶えられる戦力を整えることに重きを置いたわけです。

 最初の課題は3人の選手の慰留です。昨シーズンは、ちょうど山田哲人小川泰弘石山泰稚といった主力3人がFA権を取得しました。3人が3人とも、投打の主力選手です。2021年、ペナントレースのスタートラインに立つとなると、やはり3人の残留が必要最低限というか、残留して初めて、前年度と同じ戦力になる。そういったことを考え、私も衣笠剛社長も、とにかく全力を挙げて3人と残留交渉を行いました。結果、全員が残ってくれたことによって前年度と同じ戦力でスタートすることができました。

 他球団に戦力を渡さなかったという意味では、彼らの残留も補強と呼べるのかもしれませんが、この時点で前年と同じ、プラスマイナスゼロの戦力です。前年は最下位ですから、一つでも順位を上げる、優勝という一番の目標を達成するためには、ここからプラスが必要となります。

 次に取り組んだのが選手の入れ替えです。ドラフトで新人を獲る前に、必ず枠を空ける必要がありますので、ベテランを中心に多くの選手を戦力外にしました。これはもう永遠のテーマ、課題だと思うのですが、育成と戦力保持のバランスを取るのは非常に難しいんです。目の前のシーズンで一つでも順位を上げることに注力するのか、何年後かのチームを見据えたドラフトで育成をしていくのか……。どちらに重きを置くのかによって、チームの編成方針に大きな違いが出てきます。

 確かに、戦力外になった実績のある選手たちと、若い選手たちを比較してみれば、今季に限れば、ベテランのほうがチームに貢献してくれる可能性は高いかもしれません。ただ、現実としてそのメンバーで最下位となったわけですし、ベテラン選手がいなくなることで、若い選手たちの成長につながる可能性もある。今季は後者を優先すべきと考えました。

 若い選手からの突き上げがないと、現状の戦力も、将来的な戦力も、なかなか底上げできないと考えています。特にチームの課題である投手陣、先発投手は何人いても困りません。ただローテーションを守れる6人がいればいいのではなく、ローテの枠を競い合って高め合えるような環境でないと、全体のレベルは上がりませんから。

 今年だけではなく、将来を見据え、そういった選手たちの成長を促す環境を整えることも、われわれフロントの仕事です。若い選手が育つということは、現主力への突き上げになると同時に、将来的な戦力にプラスになりますから、今年はドラフトで育成4人を含む10人を指名しましたし、二軍に育成コーチ部門を新設しました。

昨季までソフトバンクで通算43勝をマークしたバンデンハークも加わる[写真はソフトバンク時代]


 外国人に関しては、目の前のシーズンを見据えた戦力補強です。高津臣吾監督ら現場からも「こういう選手が欲しい」と要望がありました。メジャーで実績があっても、実際に日本に来てみないと分からない部分もあるのですが、とにかく試合で戦力になるだろうと判断した外国人を採用しました。その点、前ソフトバンクのバンデンハークは、日本で実績があります。全盛期と比べればやや力は落ちているかもしれませんが、やはり彼の実績や経験値は大きいと判断し、獲得に至りました。

トレードは痛みを伴うもの


巨人からトレードで田口が加入。右は高津監督[写真=球団提供]


 春季キャンプ打ち上げ直後には廣岡大志と巨人の田口麗斗のトレードを決めました。あの時期の、しかもセ・リーグ同士というのはかなり抵抗のある取引なんですけど……。廣岡の放出が手痛いのは事実です。私の監督在任中から、彼への期待度は非常に高かったので。ただ可能性は十分感じていましたが、レギュラーを獲ることはできていなかった。やはり今シーズン、チームが上を目指していくことを考えれば、投手の補強が最優先となります。長期的に見れば、廣岡も当然必要になってくる選手だったと思います。ただ、今どちらを優先するべきなのかを考えて、この決断になりました。しかしこういった痛みを伴うようなトレードでもしないと、戦力として考えられる選手を獲得するのは、難しいんです。

 田口と廣岡では年俸の差もかなりありましたし、FAの3人を引き留めているので、チーム編成面での出費は巨額になりました。トレードも契約更改交渉も僕の一存でできることではないので、衣笠社長の許可を得てからになるのですが、大きな出費になってもなお、残留や獲得に至りましたから、社長ももちろん最下位脱出、優勝への思いを強く持っていると思います。

 われわれの仕事は、とにかく勝つためのピースをそろえること。内川聖一宮台康平近藤弘樹も、他球団を退団したり戦力外になった選手ではありますが、環境を変えることでまだ活躍できる可能性があると思って獲得しています。チームの力になると見込んでいるわけですから、当然、期待はしています。

 衣笠社長や私だけでなく、もちろん高津監督も、コーチや選手たちも、2年連続最下位に対する悔しさを持っています。一人ひとりの成績が抜きん出て、その集合体になれば一番良いですが、昨シーズンは個々の力の問題だけではなく、投打のかみ合わせが悪い試合が多かったのも事実です。とにかく、「今年は勝つんだ」という意識は全員が持っていますから、「チームのために」という思いで一丸となって戦い、結果を出してくれることを期待します。



PROFILE
おがわ・じゅんじ●1957年8月30日生まれ。千葉県出身。右投右打。習志野高から中大、河合楽器を経て、1982年にドラフト4位でヤクルト入団。92年に日本ハムに移籍し、その年限りで現役を引退。2010年途中から監督代行を務め、翌11年から正式に監督。14年まで務め、18〜19年にもヤクルト監督。20年からゼネラルマネジャー。

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