パワーが付いてさらに飛距離を伸ばし、しかもノーステップでスタンドに入れる。考えられないことですが、大谷はそれをやっている。もうスゴいしかないです[写真=Getty Images]
日本ハムでプレーしていたときから、闘争本能がある選手でした。現地時間9月26日のマリナーズ戦で先発したエンゼルスの
大谷翔平です。日本ハム時代、私が
楽天の監督をしているときです。楽天ベンチからのヤジがあったときに、ベンチを見てキッ! とにらみ返したことがあります。まだ高校を卒業したばかりなのに、度胸がスゴイなと感じたこともあります。今回はそのときの大谷を思い出しました。
1対0で迎えた7回表に同点ソロを打たれたその裏、味方の反撃が無得点に終わった瞬間に、バットをたたきつけて悔しがりました。もちろん、チームメートに対してではなく、自分の不甲斐なさ、悔しさが混ざった怒りでした。それだけ勝ちたいという大谷の闘争本能がそうさせたのだと思いますし、それこそが本当の大谷だと感じました。
この試合で勝利投手となっていたら103年ぶりの2ケタ勝利&2ケタ本塁打達成というとんでもない記録に並ぶところでした。しかもあのベーブ・ルース以来ですよね。想像もつかない出来事が目の前で起ころうとしているんです。皆さん、103年前のメジャーのことなど想像もできないですよね。
私の中でも考えてみましたが、103年ぶりのスゴさがよく分からない(笑)という結果になり、しかもこの快挙が、どれくらいの快挙なのか分からなくなっています。もちろん、先発で投げて、ローテーションを回りながらも、ほぼ毎試合、試合に出続けていたわけですから、とんでもない選手だとは思いますが、私の想像のできる範疇(はんちゅう)のさらに上を行ってしまっています。なので「本当にスゴい!」しか言えません。
それに加えてホームラン王を争っている。アジア人は骨格の問題などもあって、パワーが必要なタイトル争いの中で、40本塁打以上を打てるとは思っていませんでした。彼は体が大きいですし、今年さらにパワーを得たので、ほかのメジャー・リーガーにひけをとりません。まさか私が生きている間に、日本人打者がこのタイトルを争うとは──。
私は日本人がメジャーで本塁打王を獲ること、そしてプロゴルフでアメリカのメジャータイトルを獲ることは、ずっとずっと先のことになると思っていました。しかし今季、大谷が本塁打王になれば、私が夢を見たシーンがこの1年で両方ともに実現してしまいます。こんな日が来るとは思わなかったですね。
大谷はすでにリアル二刀流で結果を出しているだけでも偉業ですが、ゴルフの松山英樹選手とともにこういう世界を見せてくれることは、子どもたちに「遥かな夢」ではなく「身近な夢」を与えてくれていると思いますし「オレも!」と思える環境を作り出しているだけでもスゴいことをしていると思います。
ここでは大谷の最後の結果を見届けられませんが、どう転ぶにしても、伝説的なシーズンを見せてくれたと思っています。いやいやスゴい選手ですよ、本当に。
PROFILE 大久保博元/おおくぼ・ひろもと●1967年2月1日生まれ。茨城県出身。水戸商高から85年ドラフト1位で
西武に入団。トレードで
巨人入りした92年に15本塁打。95年現役引退。野球解説者やタレントを経て、2008年に西武コーチに就任し日本一に貢献。12年からは楽天打撃コーチ、二軍監督を経て15年に一軍監督に就任した。15年限りで辞任し、16年から野球解説者をこなしながら新橋に居酒屋「肉蔵でーぶ」を経営している。
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