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ダンプ辻コラム

この連載まだまだ続きますけど、大丈夫ですか?【ダンプ辻のキャッチャーはつらいよ】

 

覚醒した?阪神高橋遥人


ゲーム以外も面白い


 この間、なぞなぞみたいな話ですが、振れないようで振れていて、振れているようで振れてないものが、腕という話をしましたよね。ピッチャーが、しゃかりきに腕を振ろうとすると、実は自分の思っているほど腕は振れておらず、球も走っていない。逆に腕の振りに意識がなくても、体が切れていると、実際には振れていて球も走っているという話でした。

 今、テレビを見ていたら、いい例を見つけました。見てますか? 見てない? では、すぐテレビをつけてください。東京ドームの巨人─阪神戦です(編集部注:9月25日、突然、ダンプさんから電話があったときの話です)。

 え、近くにない? あとで『プロ野球ニュース』で確認します? いやいや、ハイライトの映像じゃ出てこないでしょう。見てほしかったのは、阪神のサウスポー、高橋遥人のベンチ前でのキャッチボールなんです。そうそう、読者の皆さんも、テレビ中継でゲーム以外のことに注目すると面白いですよ。

 ちなみに僕はついつい見てしまうのが、審判の顔です。この間、DeNAの試合で、エスコバーの打者寄りの球を、何を考えたかキャッチャーの伊藤光が途中で手を伸ばすのをやめ、審判に当たったことがある。マスク越しでしたが、審判がムッとしたのが分かりました。僕らのころにあんなことしたら、あとで審判に後ろから蹴っ飛ばされます(笑)。審判を味方にするのも、キャッチャーの力なんですけどね。

 まあ、実際の高橋のピッチングを見てもらっても分かるかもしれませんから、あとでスポーツニュースを見てください。キャッチボールのほうがゆっくりしていて、あなたでも分かりやすいと思っただけです(笑)。

 要は、よく僕が言っている、まず胸が打者に向かって出て、腕が遅れてくる投げ方ができているんです。腕だけで投げず、下半身からの回転に腕がついていく投げ方になっているわけです。

 これができると、バッターからは、腕が振れてないように見えながらも、しっかり振れていて、バッターは差し込まれやすくなるわけです。さらに言えば、腕だけで投げてないから何球投げても同じところに行く。いや、行くかもしれない(笑)。

 あとは、球を離すときですね。これは去年の菅野(菅野智之。巨人)やメジャー時代の田中(田中将大楽天)ができていたんですが、背中を丸くし、胸をすぼめるようにして腕をぐんと走らせている動きがある。一度、胸を張るからできることです。これは高橋より、去年の菅野の映像を見ると分かると思います。ほんと惚れ惚れするフォームをしていました。今年はどこか痛めているのか、少し楽したフォームになってますね。

 あれ? 話しているうちに高橋が完封しちゃいました。プロ初完封ですか。すごい、すごい。同じ左もあって、江夏(江夏豊。元阪神ほか)や金田(金田正一)さん(国鉄ほか)を思い出すくらいです。江夏は心臓の病気や故障で途中から無理ができなくなったけど、フォーム自体はずっとこれができていました。高橋は、たまたま今状態がよくてできているのか、これからもずっとできるのかは分かりませんけど、ずっとできるなら、毎年2ケタ勝てるピッチャーになるかもしれませんね。

 あと、捕手の梅野(梅野隆太郎)がいいんですよ。右打者のインローを真っすぐで攻めたと思ったら、次の回はそこにスライダーで詰まらせた。で、インコース中心かと思ったら全部アウトコースに投げさせたりね。高橋のコントロールがいいこともあったけど、楽しんでリードしてましたね。いい意味で遊んでた(笑)。投げてるほうも捕ってるほうも楽しんでいるから阪神全体のリズムもよくなっていましたしね。

すべてに目を配るのが捕手


 一方で、巨人の捕手の小林(小林誠司)は、なんかつまらなそうに淡々とやってましたね。一番気になったのはボールピッチです。見てたら、菅野の勝負球のスライダーをボールピッチに使って、そのあと甘い球を打たれたシーンがあった。あれはもったいない。申し訳ないけど、注意深さが足りないなと思いました。1球で展開がガラリと変わるのが野球ですしね。

 同じバッター相手で、たとえば同じ無死一、二塁でも全部違うんですよ。1試合130球あれば130通り全部状況が違うわけです。キャッチャーは、あらゆる状況を頭に入れ、あらゆる可能性を警戒しなきゃいけない。「まあ、何とかなるでしょう」という、あなたみたいなゆるい考えでは、絶対できない仕事なんですよ(笑)。

 しかも配球だけじゃない。内野陣に対しても声やサインで、状況を伝え、注意をうながすという仕事もあります。

 盗塁がそうですよね。今は、そこまで細かい走塁をやらない傾向がありますが、昔の野球、特にV9の巨人は、ちょっとでも隙を見せたら食らいつかれたし、こっちも負けじと相手の隙を探して食らいつきました。前回、話した一塁のピックオフプレーとかもそうですが、ルールの中で、ですけど、ほんとだまし合いみたいなこともやってました。

 今は、僕の、そういう意地悪かったころの目で見ると……いや、今はすっかり優しくなってますけど(笑)、びっくりするくらい隙だらけです。ディレードスチールに捕手から投手への返球の間にというのがありますが、見ていると、これは簡単に決まるぞと思うときがよくあります。走者がいるときは、さすがに無走者のときみたいに横着して座って投げるキャッチャーはほとんどいませんが、走者に目をやらず、機械的に返球しているキャッチャーがほとんどです。昔の柴田(柴田勲)、土井(土井正三。いずれもV9巨人時代の選手)なら走りまくっているんじゃないですか。キャッチャーは、もっともっと1球1球、そしてグラウンド全体に目を配ってほしいですね。それがリードにもつながってくると思いますよ。

 ありゃりゃ、今回は、なんか理屈っぽい話になっちゃいましたね。本当は、僕が横浜を辞めてから社会人野球の指導者になったときの話をしようかと思ったんですよ。では、それについては次回にしましょう。

 でも、この連載、まったく終わる気配がないけど、大丈夫ですかね。ネタはまだまだあるんですけど、読者の皆さんの反応が心配になってきました。もうダンプはいらん、終わったほうがいいと思う方は遠慮なく、編集部にご連絡ください(笑)。

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