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廣岡達朗コラム

“新庄革命”が成功したら、従来の指導者は何をやっていたのか/廣岡達朗コラム

 

物には順序がある



 日本ハムの指揮官に就任した新庄剛志監督の言うことは間違っていない。

 会見では「優勝は一切考えてない」と話していた。

 私は「物には順序がある」を持論にしている。新庄も優勝は当然狙うが、彼の中ではまだ課題がある選手が多い。このチームは1年では無理だから、あえてそう言っているのかもしれない。順序があることを分かっていたら大したものだ。

 あの体つきを見ても新庄はトレーニングしている。太っていない。いまの監督は横着で、われわれがやったように選手と一緒に走ることをしない。新庄ならそれができる。

 彼が今後、何をやるか。本当にチームが変わったら、いままでの監督、コーチは青ざめるだろう。指導者が問題なのは、選手がどうすればできるようになるかを教えない。ハウ・トゥ・ドゥを言えないのだ。

 秋季キャンプでは自ら車の屋根の上に立って、バットを差し出し、この高さより低い軌道で強く遠くへ放れと外野手に指示した。選手の能力は十人十色。低く放れないから高く放っているのかもしれない。放れるのに指導者が何も言わないから放らない連中もいるだろう。能力は一人ひとり違う。そこをどう教えるかだ。

 清宮幸太郎には痩せることを勧めた。体を絞ったほうがファンはもっと増えるし、キレが生まれる、と。清宮は体重を落としたら飛距離が伸びないと思っているようだ。移動中に弁当を7個も平らげたエピソードも報じられた。太ったら力が出るというのは大間違い。私がハウ・トゥ・ドゥを教えるなら「よく噛んで食べなさい」と言う。そうすれば2、3個食べれば満腹だ。なぜよく噛んで食べることが重要かというと、唾液が分泌される。食べたものと混ざるため、内臓は喜んで働き、消化を活発にしてくれるのだ。そのために、人間には32本の歯がある。こういうことを新庄が言えるかどうかだ。

 秋季キャンプでは、守備位置を入れ替えてのシートノックもやっていた。われわれもやったことだ。あれをやると器用な選手、不器用な選手が浮き彫りになる。外野手が内野を守れば内野手の心理状態も理解できる。その逆もしかり。新庄はそういうことまで考えているのかもしれない。

デタラメに見えてバカじゃない


 新庄が1990年に阪神に入ったとき、イチローより上に行くだけの素材を持っていた。肩がいい。顔も悪くない。足も速い。良い選手を獲ったなと思っていたら、メジャー・リーグへ行って3年で帰ってきた。現役引退後は、ほかの球団が獲らなかった。今回、日本ハムはよく新庄に白羽の矢を立てた。その背景は知らないが、「こいつは絞ったらもっとよくなる」「矢のような送球をしたらチームは強くなる」というのは、野球人として分かっている証拠だ。

 気に入らないのはコミッショナーが沈黙を守っていることだ。新庄が「球界を変える」と言っているのだから、どういう意味なのかと聞いたらいい。長嶋茂雄(巨人軍終身名誉監督)も今こそ表に出てくるべきだ。

 毎日のようにメディアが新庄の一挙手一投足を報じているが、来春のキャンプでは何をどう教えるか。見どころは多い。監督はコーチを育てる義務もある。コーチと一緒に勉強して成長する監督なら大丈夫だ。

 新庄がやろうとしているのは革命である。デタラメに見えてバカじゃない。彼が成功したら従来の指導者が何もやっていなかった証明だ。

『週刊ベースボール』2021年11月29号(11月17日発売)より

廣岡達朗(ひろおか・たつろう)
1932年2月9日生まれ。広島県出身。呉三津田高、早大を経て54年に巨人入団。大型遊撃手として新人王に輝くなど活躍。66年に引退。広島、ヤクルトのコーチを経て76年シーズン途中にヤクルト監督に就任。78年、球団初のリーグ制覇、日本一に導く。82年の西武監督就任1年目から2年連続日本一。4年間で3度優勝という偉業を残し85年限りで退団。92年野球殿堂入り。

写真=BBM

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