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ダンプ辻のキャッチャーはつらいよ

今のキャッチャーは無駄が多い? ダンプの時代はノーサインで捕ってました【ダンプ辻のキャッチャーはつらいよ】

 

エンゼルス・大谷の活躍が時代を変えた?


途方もないことしてます


 今、キャッチャーの配球のセオリーみたいなものをパソコンに打ち込んでいるんですよ。でも、難しいですね。途中で止まって、なかなか前に進みません。まず、データや相性、ピッチャーの出来を考え、プレーボールの1球目をどうするかから始まりますけど、それを文字にするだけでとんでもない量になる。ピッチャーが1試合130球投げるなら、130球、全部違ってきますし、ほんと途方もない。

 バッターがまず手を出さない外角低めが、初球のセオリーとしてはありますが、ピッチャーがしっかりそこに投げられるかどうかもあります。プロ2年目、昭和43年(1968年)からの江夏(江夏豊阪神ほか)は、そこにピシッと投げられたから、僕も楽だった。時々、バッターの打ち気を見抜いて、こっちを無視してど真ん中に棒球を投げたりするけど、それはそれで面白かった。バッターも「やられた」って顔をしますからね。

 ただね、たいていのピッチャーはサインどおりには来ませんけど、その試合で初めて球を受けるわけでもないでしょうから、ブルペンで教育せんといかんのですよ。「ここに投げてこい。ここに投げられんと、お前はプロでメシが食えんぞ」ってね。僕はそういうことはしっかりやった。制球だけじゃなく、ナチュラルでスライダー回転するんだったら、それを直すんじゃなく、それを武器にするためにどうしたらいいか、考えてやる。例えば、スライダー回転しない真っすぐと、意識したスライダーを覚えさせたりね。実績を出しているエース級の投手にそんなこと言っても言うこと聞きませんから、若いピッチャーやくすぶっているピッチャーにしつこく言って育てました。

 コーチでもないのにピッチャーを育てたキャッチャーって、ほかにいますか? たぶんいないと思いますよ。野村(野村克也)さん(南海ほか)? あの人は兼任監督だから言うことを聞かすことができた。聞かなきゃ使わなきゃいいんだから。僕とはまったく違います。

 おっと話が、また自慢話になってきそうでしたが(笑)、1球目を決めても、そのあと2球目に何を投げるかも状況によって全部違う。ゾーンの9分割どころの騒ぎじゃありません。これをどう書くかなんですよね。実際の試合を見ながら、次はこれと言うのはできますが、文章にしようと思うと、止まるんですよ。100歳くらいまで頭がシャンとしてたら完成するかもしれんくらいの話になってます(笑)。

 そうそう、今のキャッチャーで気になっていることが一つあったんです。ストライクが先行したあとのボールピッチで、完全にストライクゾーンの外に出て構えるでしょ。あれはなぜなんですかね。もしピッチャーの球がシュート回転気味なので矯正のためとか、バッターに見えるくらい外に動いておいてインコースなら分からんでもないけど、完全に出て、ボール球を投げさせてどうするんですか。しかも際どいストライク気味の球が来ると、少し内に入れながら捕って「ストライクでしょ」みたいなことをする。昔なら審判に蹴っ飛ばされてましたよ。際どいことしたいならミットをひょっと少し動かすだけでいいし、外すなら外すで、「はい、ボール」で捕ってすぐ返せばいいんですよ。

 そういう無駄なことをするから、とにかくリズムが悪い。サインもそうですよ。今は捕って投手に返して、座ってベンチやらバッターを見てからサインを出すでしょ。そこでいらん間ができるんですよね。捕って返して座ったときにはサインがもう決まってないと。打者の観察いうのも座ってからじゃなく、ずっとしてなきゃいけないですしね。ピッチャーが投げ急いでるなと思えばありだけど、テンポはいいほうがピッチャーも投げやすいし、守備もしやすい。試合が締まるんですけどね。ピッチャーもよう文句言わんと思います。

 僕らのころは、それでも遅いとノーサインで投げる人もいた。権藤(権藤正利)さんとか、鈴木皖武さんとかね。鈴木さんの場合はサインは出したけど、平気で違う球を投げてきた(笑)。真っすぐでカーブが来たり、あとは左だと、たいていノーサインでも捕れました。

 危ないのは江夏のカーブ。あいつのは腕の振りが早過ぎるんだと思うけど、ほとんど曲がらず、真っすぐみたいに来て、打者の手元で沈んだり、浮かび上がったりする。一度、ブルペンでサインが違う球を投げてきて、僕の腹に当たったことがある。たまたまそれがベルトに当たったけど、少し上下だったら病院行きでした。

カットボールで左が打てない?


 昔、昔とばかり言ってると、嫌われそうだから、この数年ですごくうまくなったなと思うことも挙げておきましょう。左の長距離打者攻略法です。

 昔は左バッターというのは、各チームに1人か2人しかいなかった。対してピッチャーは、今もそうだけど、右投げが多い。だからシュートは体に食い込んでくる球、スライダーは外に逃げる球というのが、何となく常識になっているわけです。

 スライダーはシュートの代わりにするには変化し過ぎて使いづらいし、左は右打者からしたら背中方向から出るように見えて打ちにくいサイドハンドやアンダースロー(ともに右)も見やすい。だんだんバッターは左のほうが有利となって右投げ左打ちが増えていったんだと思います。

 ただ、最近、右バッターの時代が来てるような気がするんですよ。特に長距離バッターが。実際、ホームランランキングを見たら右ばかりでしょ(セの上位5人のうち4人。パは同じく3人)。体調もあるかもしれないけど、ソフトバンク柳田悠岐のとんでもないホームランも減ったし、阪神の新人の佐藤輝明も途中まで、どでかいホームランがあったけど後半はほとんど打てなかった。

 大谷翔平(エンゼルス)? 彼はすごかったですね。でも、僕は大谷がすごかったから、日本の左バッターのホームランが減ったような気がしてるんですよ。要は右投手のカットボールの使い方ですね。今は流行というか、みんなが投げますけど、メジャーの投手が左打者の大谷に対してやっている、カットボールをインコース低めに投げ、外はボールゾーン気味のチェンジアップみたいな沈む球での攻めを真似し、一般的になってきた。

 こうなってくると、これからは子どもたちも右打ちが増えそうな気がするんですが、どうでしょう。ダンプの大予言とか言って新年号で出してくださいよ。別に当たっても何かくれとは言いませんから(笑)。

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