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『逃げてもええねん――弱くて強い男の哲学』より

男気あふれる坂口智隆が「男の中の男」という、栗山巧が背中で語ること【第4回】

 

近鉄、オリックスヤクルトでプレーして、現在は野球評論家として活躍する坂口智隆さん。現役時代には「ケガに強い」「弱音を吐かない」武骨でストイックなイメージがありましたが、「本質は違います」とご本人。「こんな地味なプレーヤーの自分でも、20年プロ野球の世界で生きていけた」理由、考え方とは。6月に刊行された初の自著『逃げてもええねん――弱くて強い男の哲学』(ベースボール・マガジン社刊)より抜粋しご紹介します。今回は、中学生のときに「神戸ドラゴンズ」でチームメイトだった栗山巧(西武)から教わったこと。

「かっこいい」の正体


人の魅力は「雰囲気」に出る。坂口の背中からもファンはそれを感じていた


 みなさんはどんな人間に魅力を感じるでしょうか。僕は言葉より、雰囲気を大事にしていて、背中を向けていても、ついていきたくなる人に惹かれます。「この人は何があっても裏切りたくない」と思える人は、ほかの人にも慕われるし、みんなのよき手本として行動で示してくれる。

 僕の中で「男の中の男」が、西武の栗山巧さんです。栗山さんとの出会いは、今から26年前。中1のときに「神戸ドラゴンズ」に入ったときのことでした。

 小学生までは自分が一番であることを疑わなかったのですが、1学年上の栗山さんを見て衝撃を受けました。鋭いスイングで打球がメチャメチャ速い。飛距離もケタ違いでした。「こんなすげぇ中学生がいるんだ……」と、あ然としました。

 高校、プロに入っても衝撃を受けた人はいましたが、栗山さんを見たときを超える衝撃はない。大げさでなく、当時の僕にはプロ野球選手に見えたのです。1学年上だからではなく、この実力の差は一生埋まらないと思いました。

勝てないと思ったときに負けが確定している


 栗山さんは育英高校から西武に入団しましたが、西武とオリックスの対戦で同じグラウンドに立てたときは本当にうれしかった。

 僕と栗山さんだけ開幕から無安打が続いていたシーズンがあったのですが、栗山さんが打った次の日に僕が打って、そのときも負けました(笑)。プロ入り後に通算2000安打を達成したことに、何も驚きはありません。すごい人ですから。僕の見る目がありましたね。栗山さんには安打数もプロ在籍年数でもきっちり負けている。人は勝てないと思ったときに、負けが確定しているのです(笑)。

だれに対してもフラットで優しい


 栗山さんが魅力的だったのは、野球の実力だけではありませんでした。飛び抜けた実力であるにもかかわらず、偉ぶることなく物腰が柔らかい。

 試合に出る人にも、出られない人にも同じように接するから、栗山さんの周りには自然と人の輪ができる。僕に対しても優しく接してくださり、後輩たちに尊敬されていました。

 子どもには、スポーツができる、できない、勉強ができる、できないで上下関係ができて、優秀な人たちで固まるようなところがあります。成長するとともに、自分の未熟な部分に気づいていくものだと思うのですが、栗山さんはそういう部分が一切なかった。当時から、だれに対してもフラットで人間として成熟していました。

 うちのおかんも栗山さんが大好き。あと、当時からかっこよかった(笑)。プロ入り後も気にかけていただいて、僕が1000安打、1500安打を達成したときなど節目のときに、花を必ず贈ってくれました。「覚えてくれている」と思えて、ありがたかった。

 僕はひと足先に引退しましたが、栗山さんにはケガに気をつけて、1年でも長く現役を続けてほしいです。

写真=BBM

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