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外国人投手頼みだけじゃなく育成も大事【川口和久のスクリューボール】

 

小笠原は、今回の完封でピッチングのコツみたいなものをつかんだんじゃないかな/写真=内田孝治


捕手に必要な二面性


「お前の記録なんかどうでもいいんだ、チームは勝ちたいんだ。最後三振で抑えろ!」

 2012年5月30日、俺は東京ドームのマウンドでそう言い放った。

 7月27日、中日戦(東京ドーム)で、巨人山口俊がノーヒットノーランを達成した。史上79人目、巨人では2012年の杉内俊哉以来(対楽天)だけど、あの日、俺が杉内に言ったのが、最初の言葉だった。

 当時、俺は巨人の一軍投手コーチ。杉内は9回二死まで完全試合だったけど、そこから四球を出した。ベンチで原辰徳監督と目が合い、「カワ、行くだろ」と言われ、「もちろんです」と答えた。大記録ノーヒットノーラン目前ではあったけど、スコアは2対0で走者を出した。ホームランなら同点。しかも杉内の目は完全に飛んでた。こういう場面で手痛い一打を浴びるシーンは現役時代から何度も見ている。(たぶん)俺の声であいつは我に返って最後、きっちり三振に抑えた。あいつはゴルフが好きだったから、後日、記念に特注のゴルフボールを10ダース、プレゼントした。

 俺は高校時代に1回だけノーヒットノーランがあるけど、ご想像どおり6四球出している。狙ってできる記録じゃないよね。味方の守備もあるし、意外と大きいのは相手投手。リズムがかみ合ったほうが出やすい記録でもある。山口の場合、相手先発の山井大介の好投もあって2時間23分、103球で終わった。

 巨人の捕手は小林誠司。久々のスタメンマスクだったけど、ストライクを先行させて気持ちよく投げさせていたね。小林は首脳陣から「あんなリードじゃ使えない」とらく印を押され、しかも代わりの大城卓三宇佐見真吾が勝ちゲームを作り、なおさらスタメンが遠のいた。

 ただ、小林のリードは大城、宇佐見より確実に上。若い2人は、インコース中心に投手を気持ちよく投げさせることはできていたけど、打ち込まれたり、制球が荒れてきたときは、それだけでは足りなくなる。逆に小林は痛い目を見てきた中で、強気にいけなくなり、安全策ばかりになっていた印象もある。

 俺が広島時代にバッテリーを組んだ達川光男さんは、その切り替えがうまかった。重圧がかからない場面では、すごく俺を気持ちよく投げさせてくれるけど、ランナーがたまったら、「ここから俺に任せろ。リードどおりしっかり投げろ」になった。小林がこれから達川さんみたいに大胆さと繊細の2つをうまく使い分けられるかどうかだね。そうなったらもう「顔だけの選手」なんて誰にも言われないよ。

投手の育成が下手に


 大記録の翌日は菅野智之がだらしなく、同じ東海大相模高の後輩、中日の小笠原慎之介が完封した。3年目だけど、入ったころはストレートとチェンジアップで、たまにションベンカーブ。そういえば、最近、ションベンカーブって使わなくなったね。それがいまはストレートのキレが増して、カットボールをうまく使えるようになった。巨人は右打者を並べてきたけど、インコースにカット、アウトコースにチェンジアップ。内と外の配球で勝てるピッチャーになってきた。

 最近、どの球団も高卒選手を使いながら育成するのが下手になってきたんじゃないかな。アマでそれなりに完成した選手だったり、あとは外国人投手に頼りっぱなしというチームも多い。やっぱり長いスパンで考えたら、小笠原みたいに粗削りな選手を我慢して育てるというのも大事なことなんだけどね。

 そうだ。わが母校・鳥取城北高の甲子園出場が決まった。今年は弱いと言われていたんだけど、よく頑張ったね。

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