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ソフトバンクの日本一の要因、特にリリーバーの質の高さやな【岡田彰布のそらそうよ】

 

もともとは先発でもしっかり投げられるソフトバンクの武田がリリーフで控えている。この層の厚さと質の高さが日本一になった一番の要因やと思うね/写真=榎本郁也


ソフトバンクの中継ぎ、特に武田には驚かされた


 オレは1957年、昭和でいえば32年生まれである。11月25日が誕生日だから、もうすぐ61歳を迎える。幼いころから野球一筋。その当時、最も強いチームはもちろん巨人よ。熱烈な阪神ファンやったけど、巨人にはまったく歯が立たたない。その結果、巨人はV9!! こんな強いチームは二度と現れないやろね。

 同じチームが9年間、日本一になり続けるんよ。その後、プロの世界に身を置き、V9の重み、スゴ味をあらためて知ることになる。すべてのチームが“打倒・巨人”を揚げるが、それをことごとく跳ね返してきたわけよ。いかにチーム力がすぐれていたか、いかにタイムリーな補強が行われたか、やっぱり理想のチームやった……と思うわけです。

 そんなV9時代の巨人におよばないものの、今年のソフトバンクは強さを示して日本一に輝いた。レギュラーシーズン2位からの日本一……に多少の違和感は残るけど、やっぱり日本一にふさわしい強さやったと思う。

 あらためて日本シリーズを振り返って……という指令がきた。オレは戦前の予想で、ソフトバンク日本一説をとなえていた。それは日本シリーズが始まるまでの流れ、勢い、そして総合的なチーム力。これらが根拠になっていたのやけど、ホンマ、そのとおりの結果になった。相手本拠地でこそ1敗1分けやったけど、博多に舞台を移してからの3連勝。そしてそのまま広島でも勝ち、一気に頂点を極めた。オレは博多でソフトバンクが1勝した直後、「こりゃ4連勝もあるぞ」と知人に伝えていたんやけど、長年、この世界にいた感覚、感触というのが働いたわけ。それほどソフトバンクのほうに流れは傾いていた気がする。

 日本一の要因については、柳田(柳田悠岐)を柱とする打線を評価するファンは多いと思う。もちろん、MVPに輝いた“甲斐キャノン”(甲斐拓也捕手)を挙げる人もいる。オレはそんな中で投手陣の意外なほど層の厚みを日本一の決め手と考えるんよね。

 戦前、ソフトバンクの弱点については、投手陣が挙げられていた。ところがどっこい、そうではなかった。特にリリーバーよ。短期決戦だけに、ベンチは出し惜しみなく投手陣をつぎ込むことになるけど、ソフトバンクのリリーフ陣の質の高さ、人材の抱負さには驚かされた。

 中でも武田(武田翔太)の存在やね。もともと先発やったのが、今シーズンの途中からリリーバーに転じ、彼の能力の高さが全開したわけ。武田の出る場面は緊迫した状況。そこを力でねじ伏せ、相手に大きなダメージを与える。力のあるストレート、そして落差のあるカーブ。これを軸にして広島打線のつなぎを分断した。こんな切り札が試合の途中にいることこそ、ベンチの安心感。今シリーズの武田の存在感は、リリーバーの重要性をあらためて、知らしめたことになったんやないかな。

広島の戦略は意地になり過ぎ、セは基本の戦略に立ち返れ


 逆に敗れた広島やけど、リーグ3連覇したチームやし、力はもちろんある。だけど今シリーズだけに限れば、力も気持ちも空回りした感じがしてならない。

 というのは、ポイントになった甲斐キャノン対策よ。広島は足を絡めた攻撃、切り崩しが得意なチームで、初戦からそれを試したわけ。ところが、ことごとく甲斐の肩にやられてしまった。こうなれば、ベンチとしては対策、戦略を練り直すのだが、緒方(緒方孝市)監督は意地になったんかなあ。博多に移ってからも同じ戦法をとり続け、そして封じ込められた。オレは「どうしたんだ、広島?」とうなるしかなかった。

 どうして、そこまで意地になってしまったのか……。その気持ちは分からなくはないけど、ベンチとしては、ある意味、冷静さが必要ではなかったか。そう考えるんよね。

 足を絡めた攻め……は盗塁だけではない。ヒットエンドランもそう。バントを絡めてもよし。特にヒットエンドランを用いてもいい局面も多くあったのに、そうでなく、盗塁を用いた。これが悔やまれて仕方ないんやな。相手バッテリーの対応力、甲斐の肩の強さ、コントロールのよさが特筆されるけど、それを際立たせた広島の頑固なばかりの攻めパターン。これがこの日本シリーズの明暗を分けたところやと、オレは分析する。

 それにしても長く続くパ高セ低の現象よ。ソフトバンクの日本一で、パ・リーグが6年連続日本一になったわけよ。オレは阪神とオリックスで監督を務めた。セとパの野球を体験しているんやけど、はっきりしていることはパのほうが強い! ということやね。これは制度上のポイントもあり、それがDHという制度。これは投手交代にも影響もあり、攻撃形態にもかかわっている。これによってパ・リーグの野球は力対力、これがすべてとなる。

 例えばバッテリーの配球でも、ここは当然、変化球のケースでパ・リーグは力で押していく。相手がストレート狙いと分かっていても、ストレートで抑え込みにかかるわけである。セ・リーグは違う。ストレート狙いのバッター心理を読み、変化球でかわしていくのがセの当たり前の戦術。その違いは顕著だし、今もそれは続いている。

 オレも阪神からオリックスに移ったとき、セとパの野球の違いに戸惑ったもんよ。本格的なパワーを重要とするパの野球を知り、適応することを図った。こういったパワー野球のパ・リーグが長く日本一に君臨しているのだがら、セ・リーグもなんとかするしかない。それはパに応戦するのではなく、セの野球の強みとしている細かさを貫くしかない……とオレは思っている。相手に合わせるのではなく、あくまで細かく、デリケートなセの野球を強調すること。まずは基本に立ち返ることやと、オレは考えている。(デイリースポーツ評論家)

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