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小林誠司に贈る言葉は「まず隗(甲斐)より始めよ」【川口和久のスクリューボール】

 

甲斐が甲斐キャノンなら小林はコバズーカかな


FAはしんどいよ?


 FAシーズンが始まったね。資格者はたくさんいるけど、複数年契約が一般化したこともあって、今年も実際に行使して移籍する選手は、あまり多くはなさそうだ。FAは、選手の権利ではあるが、ファンや周囲の声もある。日本の場合、元のチームを裏切るみたいに言われることも多いし、最初は条件がよくても結果が出なければすぐポイもある。すごく悩むし、勇気もいると思うよ。

 俺も94年のオフに宣言して巨人に移籍したけど、当時のカープは「宣言イコール移籍」だったし、迷いに迷った。1、2週間だったと思うけど、滅茶苦茶エネルギーを使ったな。毎日、頭がそのことでいっぱい。「あれ、俺、きょう昼メシ何食ったっけ」みたいな日々だった。女房には「FAしないなら離婚しましょう」と言われたしね。

 まあ、この話は週べで近々移籍の特集があるらしいから、そのときにあらためて。

 今年の目玉は、セでは広島丸佳浩、パは西武浅村栄斗かな。丸は、今年のMVP確実の選手。チームのけん引役だし、抜けたら大変だな。ただ、カープの場合、野間峻祥西川龍馬バティスタ、外国人枠はあるが、A.メヒアもいる。そろそろ二軍から新しい選手が出てくるかもしれないし、過去の例を見ても、意外と問題ないかもしれないな。さらに言えば、超バイプレーヤーの松山竜平がいるしね。

 派手さはないが、松山は勝負強いし、いいバッターだよね。俺の中では、昨年2017年のMVPは松山なんだ。鈴木誠也が骨折で抜けた後の四番に入って、穴を埋めるどころか、さらに積み上げるくらいの活躍をした。松山がいなかったら、あの年の優勝は厳しかったと思うよ。

 当初は、松山もFAで抜ける可能性があったが、引退する新井貴浩の説得で残留になった。「広島は家族だから」って、新井らしいメッセージだね。チーム愛に加え、彼もFA移籍をしたから、よそのチームでやる大変さが分かるんだろうね。出て行ったパイオニアの俺の意見も、「残ってよかった」。やっぱり大変だったからね……。あ、誤解ないように。後悔はしてないよ。

 移籍戦線の主役になりそうな巨人は、丸と西武の炭谷銀仁朗を狙っているらしいね。報道では浅村獲得の動きは出ていないけど、俺は、浅村はセでもかなり打てるタイプだと思う。阪神オリックスが積極的に動いているみたいだけど、巨人も手を挙げたほうがいいんじゃないかな。まだ28歳という若さも魅力だしね。

小林への刺客が続々


 日本のFA制度だと大学出、社会人出は30歳を過ぎてからの権利獲得になるけど、正直言って、そこからだと投手なら活躍できて3、4年じゃないかな。俺がコーチ時代、14年オフにオリックスの金子千尋がFA宣言したときは巨人も調査したが、ヒジに不安あり、という情報でやめたことがある。10億円以上の買い物になることも多いし、獲得する球団にとっても難しい選択を迫られる制度ではあるね。

 炭谷を獲るのは、原辰徳監督が「捕手」を強化ポイントと考えているというメッセージだと思う。阿部慎之助もキャッチャー復帰を直訴して認められたみたいだしね。

 これは現在の正捕手・小林誠司への刺客、要は刺激だろうね。守備面というより、原監督はセだけじゃなく、パを相手にしてもそん色ない打線を考えているはず。そのためには、これから外国人の補強もあるのかもしれないけど、まずは「打てる八番打者」が欲しいということさ。

 DHのないセはパ・リーグ以上に八番打者、つまり捕手の打撃力が重要になる。今の広島には會澤翼がいるし、巨人の黄金時代には慎之助がいた。捕手が打てないと八、九番が相手投手のオアシスになってしまうんだ。3イニングに1回は息を抜けるわけだしね。

 それを原監督は変えたいと思っている。巨人の場合、1回だけの優勝じゃなく、常勝軍団が要求されるしね。まずは炭谷、慎之助で小林に刺激を与え、覚醒させようとしているんじゃないかな。あいつはWBCとか今年の序盤とか、打つときは打つが、それが長続きしない。ポテンシャルはあるという評価だろう。

 ただ、原監督は我慢しないよ。小林がダメなら、すぐ慎之助、炭谷、さらに大城卓三を抜てきする可能性も十分ある。そういう抜てきが好きな人だからね。原監督の中では、小林の成長を気長に待つという選択肢はないと思う。とにかく打てる八番、結果を出せる選手を欲しがっているはず。固定せず併用の可能性もあるだろうね。

まずはスローイングで


 小林も来年で30歳。もう若手とは言えない。来年ダメならそのままチャンスが回ってこないかもしれない。春季キャンプは死ぬ気で頑張らないとね。

 小林の打撃の不安定さは守備面の不安からも来ているように思う。過去、広島時代の野村謙二郎がそうだったけど、守備が危なっかしかった若手時代は打撃も不安定だった。守備のミスを打撃でカバーしようとか気負い過ぎもあったのかもしれない。守備が安定してくると、打席でもどっしりと落ち着いてきたし、周りがしっかり見えるバッティングになったように思う。

 今回、俺が小林に贈る言葉は「まず隗(かい)より始めよ」さ。これは中国の故事で「大事を成すにもまず身近なことから」の意味だという。

 リード面の成長は、時間がかかる。これはじっくり実戦を積み重ねるしかない。伝統的だけど、巨人の場合、負けると捕手がガンガン叩かれるしね。これはもう人気チームの宿命とあきらめるしかないだろう。

 ただ、小林には強肩という武器がある。まずは、これをしっかり磨いて、アピールするというのはどうかな。今はコントロールがかなり物足りないからね。

 これで何となく話の流れとタイトルの理由が分かったと思うが、実は「まず隗より始めよ」という故事は、「かい」を違う漢字でいろいろ調べていて見つけた言葉なんだ。

 そう、隗じゃなく甲斐さ。日本シリーズのMVP、甲斐拓也だね。あの“甲斐キャノン”は小林の参考になると思うよ。

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