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ほめてばかりで伸びるのかな【川口和久のスクリューボール】

 

現役時代の掛布さん。阪神の裏も表も知っている方です


まさにパワハラまみれ?


 センバツ出場の32校が決まった。わが母校・鳥取城北高も出場するが、まずは是が非でも1回戦を突破してほしい。エースの中川央は140キロ台半ばが出るし、投手力はそん色ないと思う。打線もチーム打率が3割6分超というし……。いや、地方大会の数字をうのみにしちゃいけないか。それでなくとも打線は水物だからね。

 俺も2月の頭に学生野球資格を回復したら(するはず……。少しドキドキしていますが)、様子を見に行きたいなと思っている。攻守のバランスのいいチームと聞いているけど、センバツまで少し時間もあるし、もう一度、チームの課題を見直し、しっかり準備してほしい。

 今回の出場校の中で、プロ出身監督は智弁和歌山高の中谷仁(元阪神ほか)と天理高の中村良二(元近鉄ほか)、鹿児島城西高の佐々木誠(元ダイエーほか)だ。徐々にプロ出身者が指導者に返り咲く流れができてきたね。

 プロ出身者は、技術面や作戦面のアドバンテージはあると思うけど、1つ難しいのは、“今の”子どもたちと接した経験量が少ないということだ。今は俺らが高校時代に受けてきた指導をそのままやったら完全にアウトだからね。間違いなくアマの世界から抹殺されてしまうだろう。

 今の現役選手はもう違う世代になっているけど、40代以上のOBは、ほとんどが高校時代、ガンガン怒られながら野球をやってきた。殴る蹴るはどこにでもあったわけじゃないけど、「やめちまえ」とか「やる気ないなら帰れ」とかは、あいさつ代わり。まさにパワハラまみれだった。

 高校じゃないけど、この間、金田正一さんのお別れ会で、早大の監督になった小宮山悟と少し話をしたときも「怒れないんですよ。顔に出してもいけない。難しいです」と言っていた。自分を押し殺し、もう一人の自分を作っていかなきゃいけないんだろうね。

 ただ、厳しい指導がすべて悪いというわけじゃないと思う。俺だって怒られていい気持ちはしなかったけど、反骨心は磨かれた。カープに入ってからもそうだけど、「コノヤロー、見てろよ」という思いが原動力の1つになった。

 今みたいにほめられて育ってきた選手は、いいときはいいが、スランプになったり、逆境になるともろい。俺が巨人のコーチ時代もいたが、自分で考えてピンチを抜け出すことができないんだ。誰かが助けてくれるのをじっと待っているというかね。

 チームも個人もそうだけど、ほめまくる指導でも、成功すれば自信になり、技術が上がり、強いチームに変わるだろう。ただ、結果が出なければどうなるか。モチベーションを上げてばかりだと、「全力を尽くしたからいい。運が悪かっただけ」で終わりになりそうな気がする。高校野球ならそれでもいいかもしれないけど、プロの世界じゃ生きていけない。

語り部としての期待


 話は変わるが、掛布雅之さんが「HANSHIN LEGEND TELLER」(ハンシン・レジェンド・テラー)に就任した。正直、謎の肩書きだけど、阪神の歴史の語り部ということらしいね。俺は球団の看板だった選手が球団のトップ近くにいるのはいいと思う。やっぱり発信力が違うからね。OBじゃない球団社長やオーナーが何か言うと「現場を知らんくせに」と反発を食らうし、監督ではなかなか言いづらいこともある。掛布さんが間に入って何か言えば、丸く収まることも多いんじゃないかな。

 今回の守屋功輝のDV騒動だって、何も選手が会見しなくても、掛布さんが「バカなやつだ。選手はグラウンドで結果を出すしかない。キャンプでぶっ倒れるまで鍛えまくってもらいますよ」とか言ったら、すんだような気がする(甘いかな)。掛布さんは現役時代から写真週刊誌といろいろあったからマスコミ対策にも慣れているだろうし、経験者のアドバイスは大きいんじゃないかな。……あれ、掛布さん、こういう昔話の語り部というわけではなかったんでしたっけ。

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