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笠島尚樹(敦賀気比高・投手) 総合力で勝負する145キロ右腕の未知なる可能性

 

日本ハム・金子弌大が理想だ。つまり、精密なコントロールとキレのあるボールを追求してきた。2度の甲子園で実力は実証済み。素材の良い右腕に対して、指揮官は近い将来の先発ローテ入りを確信する。
取材・文・写真=沢井 史

「夏3連覇」を遂げた福井県高野連主催の独自大会でも快投を見せている


 今夏の地方大会中止を受けた、福井県高野連主催の福井大会で3連覇を遂げた敦賀気比高・東哲平監督は試合後、安どの表情を浮かべてこう口にした。

「今年は本当に、難しかったです。(新型コロナウイルス感染拡大の影響で)練習の流れが例年と違う中で、コンディションがなかなか上がらなかったですけれど、よく投げてくれました」

 そう言った視線の先にいたのが、エース右腕・笠島尚樹だ。

 1年夏、そして2年生だった昨夏はエースとして甲子園のマウンドを踏んだ経験豊富なエースだが、今年は“異例の夏”に苦しんだ。春から夏にかけての歩みを、自身はこう振り返る。

「いつもなら春から公式戦、練習試合があるのに、実戦が少なかったので、段階が踏めなかったのは苦しかった。ただ、最後に悔いは残らないように、しっかり準備をしていこうと思っていました」

 開催されると信じ続けた夏の地方大会と全国大会(甲子園)がなくなったものの、独自大会の開催が決まり、照準を7月に合わせた調整が続いた。活動自粛が明け、6月以降は対外試合が再開。同月末の智弁和歌山高との練習試合では、5回を投げて3安打無失点と好投した。

「智弁和歌山戦は体のバランスが良かったです。普段から体重移動のときに上半身が突っ込まないことを意識しているんですけれど、意識どおりに投げられたし、フォームのバランスも悪くなかったです」

追い求める「勝てる投手」


 独自大会に入ると、なかなか調子が上向かなった。春先に対外試合自粛の期間が長かった影響が出た。練習量のピークの持っていき方が、例年とは異なり、体の疲労が残ったままだったからだ。「もともと自分は、状態を上げていくのが苦手なんです。昨年も県大会1回戦、2回戦で良くなかったですし……。今年もまたか! と思ったんですけれど、ズルズルいかなかったのは、成長した部分なのかなと思います」と、胸を張った。

 三国高との初戦は4回3失点。啓新高との準々決勝では12安打2失点。試合を重ねながら、心掛けてきたことがある。

「今大会はストライクをどんな形で取るかを、考えながら投げました。ムダなランナーを出さないことや、打たれてはいけない場面では打たれない。先頭打者と2アウトから打たれると、失点につながりやすいので、そこは意識しました」

 最終的にチームが勝てばいい、と開き直って投げられたことも、プラスに働いた。例年より調整不足で、暑さも加わり、体力が消耗。福井工大福井高との決勝では3回以降、バテ気味だったと言うが、経験が生きた。「自分はしんどいときのほうが余計な力が入らないのでボールが走る」と、脱力して投げられた。8回無失点と安定感ある投球で有終の美を飾った。

 チームを支えた笠島に、東監督は「スピードより、キレやコントロールで勝負するタイプ。これから体ができ上がっていったら、相当いいピッチャーになるはず。うまくいけば(プロで)2年目あたりに出てくる可能性もある」と期待を寄せる。目指すのは「勝てる投手」だ。

「意図的な1球1球を投げ込んで、一つひとつアウトを積み上げていくピッチャーが理想です。自分自身、この夏はピンチでは粘り強く投げられたと思っています。球速は今まではずっと意識していましたけれど、この夏はスピードよりも伸びを意識して投げました」

 笠島のストレートは打者の手元で微妙に変化し、とらえづらい球質である。「伸びながら、曲がるほうだと思います。調子が良くないときは少し落ち気味なこともありますが、良いときは落ちずにそのまま微妙に曲がるんです。リストや腕を柔らかく使って投げるので、その影響があるのかもしれません」。肩関節の柔軟性に富んでおり、球持ちが長いことが一因にある。

指揮官は将来性に太鼓判


 同学年には180センチ右腕・松村力、184センチ左腕・岩田優世と大柄な投手がいた。

「自分は体が大きいほうではないので、コントロールやキレを大事にしようと。昨秋までは球場のスピードガンは……よく見ていました(苦笑)。ストレートで押せる部分は押していきたいですが、総合力で勝負できるようになりたい」

 高校入学時は「プロに行きたい」という強い思いはなかったという。だが、エースとなった昨春の北信越大会からさまざまな場を踏み、昨夏の甲子園では自己最速の145キロをマークし、目線が変わってきた。周囲の目も変わり、自覚が増した。「特に甲子園では自分の思った以上の力を出すことができて、もっと上で野球をやりたいと思うようになりました。金子弌大(日本ハム)さんみたいに、構えたところにきっちり投げられる。ミットがまったく動かない、糸を引くようなコントロールを磨いていきたいです」と、熱い野望を抱いている。

 東監督は将来性について「笠島は器用なタイプだし、やっていけるでしょう」と太鼓判を押す。過去には15年春のセンバツを制した日本ハム・平沼翔太(プロで野手転向)、オリックス山崎颯一郎らを育成。高校日本代表コーチのキャリアもある指揮官の言葉には、説得力がある。すでに8月11日にはチームメートの松村とともに、プロ志望届を提出した。10月26日のドラフトを控えるが、夏以降も次のステージへの準備に余念はない。

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