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【インタビュー】巨人・オコエ瑠偉 胸に秘めた自信「最後まで腐らずに1年間しっかりできたからこそ、今がある」

 

前向きな移籍


巨人オコエ瑠偉[外野手/8年目]


プロ8年目のシーズンは、思わぬ形でのリスタートとなった。高いポテンシャルを秘めながら、発揮できぬまま過ぎ去った日々。現役ドラフトでの移籍により環境が変わったことは、チャンスでしかない。密かに抱いていた自らに対する自信を、プレーで証明するだけだ。
取材・構成=杉浦多夢 写真=高塩隆、川口洋邦、湯浅芳昭
※情報は5月7日現在

 昨年12月に開催された現役ドラフト。新たに導入された移籍制度において一際、注目を集めたのが巨人の指名した選手だった。2016年にドラフト1位で楽天に入団した未完の大器。誰もがポテンシャルの高さを認めながら、ケガもあって眠り続けていた男。それでも、常に自分に対する「自信」は胸に秘めていた。新天地を得た今、ようやく自らの持てる力を発揮しようとしている。

──移籍1年目のシーズン、順調なスタートを切れたのではないでしょうか。

オコエ 出だしは自分が思っていた以上に良かったかなと思うんですけど、1カ月が過ぎて数字という部分では少し落ちてきてしまって。感覚的にはいつも「もう1本出せた」ということを感じながらやっていますね。

──数字的にもう少し上積みができると感じているのですね。

オコエ 数字はあまり気にしていないと言ったらおかしいですけど。数字よりも、リーグが変わったことによる相手ピッチャーに対する感覚ですね。どんなピッチャーなのか感覚的に分からない状態での試合が続いていたので、そういうことをもっと覚えていかないといけない。パ・リーグのときは7年間やっていたので、ピッチャーのイメージを持って打席に向かうことができていたんですけど。それでも最初の1カ月については、高得点ではないものの、しっかりできたかなというのはあるし、逆に課題も多いなというのもありました。

──見えた課題というのは。

オコエ バッティングについてはまだ絶好調という感じでもないし、もうちょっと上がってくるだろうなというのがありながら、ここで変化を入れてしまうと一気に崩してしまうこともある。試合に出続けることで疲れが出てきて、バットが振れなくなってくることもある。それがぶつかっている壁というか、それで1カ月が過ぎて数字も少し落ちてきてしまったのかなと思います。

4月9日の広島戦[マツダ広島]では先頭打者で約4年ぶりの本塁打。チームにもすっかり溶け込んでいる


──とはいえ、現役ドラフトで移籍が決まったときに現在の活躍は想像できていたのでしょうか。

オコエ 自分の場合はちょっと特殊かもしれないですけど、強気でいた部分もあったので。口には出していないですけど、「俺はもっとできるぞ」という内心はそういう気持ちがありましたから。昨年は一軍で6試合だけで、数字だけで見たら「あー」って言われてしまうような成績だったんですけど。ほとんどを二軍で過ごして、ドライチの吉野(吉野創士)君もいてチャンスが限られる中で、開幕から2カ月は打率5割をキープしたり、しっかりやることができていたので。たとえオフに戦力外になっても別のチームへのアピールになればという気持ちで、来年(23年)に向けてしっかり勉強しながら、最後まで腐らずに1年間やることができたからこそ、今があるのかなと思いますし、移籍が決まったときも、とにかく前向きでした。

──新たな環境として巨人というチームはいろいろな意味でやりがいがあったのではないでしょうか。

オコエ 小学生のときに(ジャイアンツジュニアで)ユニフォームに袖を通していますし、ドラフトのときにも指名があるんじゃないかと報道されたりして、自分の中では思い入れのあるチームです。7年越しにジャイアンツに入れたというのは縁があってのことだと思いますし、すごく光栄ですね。

──巨人ファンのおじいさまも活躍している姿を見て喜ばれているのでは。

オコエ 今のおじいちゃんの唯一の楽しみなんじゃないですかね(笑)。脳梗塞で倒れてからはほとんど寝たきりなんですけど、毎日のようにテレビで見てくれています。たまに怒られるんですよ。「何であそこで三振するんだ!」とか(笑)。スタンドで見ているお客さんと変わらないような声の掛け方をしてくれるし、客観的な意見としてすごく参考になったりもする。おじいちゃんには小さいころから野球を見に連れて行ってもらったりしていたので、今、野球ができている姿を見せられるのはすごくいいですね。

お前さんは回れる


原監督のアドバイスもあってついに打撃で開眼しつつある


 直したくても直せなかった打撃面での悪癖。現役ドラフトでの移籍がきっかけとなったわけではないが、このオフにようやく改善の兆しが見えた。新たな指揮官のアドバイスも糧に、バットでアピールしてつかんだ開幕スタメンの座。武器である守備と走塁に打撃を加え、トータルプレーヤーへの道を歩んでいく。

──実際に入団して、巨人というチームの雰囲気はどう感じましたか。

オコエ 自分くらいの年齢(25歳)の選手が移籍して行って、どういう付き合いをしていけばいいのかなと、チームの人たちと会う前にすごく考えていたんですけど。ジャイアンツっていろいろなチームから選手が来ているというのもあって、すごくすんなりと迎え入れてもらえました。正直、「考え過ぎてたなあ」って思わせてくれるくらい、みんながフラットな感じで。先輩方も勉強になるアドバイスをくれたり、面白いことを言ってくれたりもするので、居心地がいいですね。

──一方、これまで苦しんできた打撃面である程度の結果が残せているのは、どんなきっかけがあったのでしょうか。

オコエ オフシーズンに改良することができたのが大きかったですね。今まではトップをとってから、一度グリップを自分のほうに寄せてしまって、そこからパンチするみたいな感じの打ち方だったんです。まあ悪癖ですよね、自分の。せっかくトップをとっても、そこからスムーズにバットを出すことができなければ全然出力が変わってきてしまう。じゃあ、何で直さないんだって言われてきたんですけど、自分でも分かっているし、挑戦はしてたんですけど、悪い癖ってなかなか抜けるものではなくて。それがこのオフに動作解析をしてもらったり、ドリルに取り組むことで、トップからスムーズにバットを出す感覚がつかめたんですよ。そこは一番大きな打撃の改善ポイントだったなと思います。

──打撃フォームの改善でコンタクトの確率も上がったのでしょうか。

オコエ 変わってきましたね。要はヘッドスピードも上がるので、長くボールを見ることもできますし。スイングがシンプルになっているので、今までよりタイミングも取りやすくなったり、全体的にやりやすくはなっています。

──原辰徳監督から、打席で「もっと本塁ベース寄り(前)に立てば」というアドバイスもあったと聞きます。

オコエ ありましたね。もともとは楽天のときに本塁ベースに近過ぎたというのがあったんです。それで外のボールが打てるようになったら、今度はインコースを攻められるというのが道理というか、内を攻めてくるのがキャッチャー心理なので。今度はそれを嫌がって、インコースが真ん中になるくらい少し離れて立っていたんですね。移籍が決まってからも、セ・リーグのピッチャーはみんなシュートをインコースに投げてくるイメージもありましたし。そうしたらキャンプで原監督に「なんでそんなに離れてるんだ」と言われて、すごく話を聞いてくれる監督なので「シュートが多そうなので、ちょっと怖くて」と正直に答えたら、「お前さんは回れる(体を回転させることができる)から、近くても大丈夫」と言ってもらったんです。

──それによってインコースをさばけるようになったのでしょうか。

オコエ 自分ではインコースが苦手だと思ってたんですけど、監督の目にはそうは映っていなくて、「お前さんは回れるから逆に(インコースは)得意なほうだよ」と言われました。それでいざやってみたら、本当にすごくいい感じに回ることができた。打撃フォームを改善したことでスイングスピードが上がって、インコースをさばけるようになったというのもあるかもしれません。もちろん状況に応じてやっていかないといけないんですけど、近くに立てば外の変化球にもまた対応できるようになりますよね。

現役ドラフトの意義


武器であるスピードはチームに求められる部分でもある


 まずは新天地で確かなスタートを切ることができた。だが、これまで1年間を一軍で完走したことはない。まずはシーズンの最後まで、自分の力を出しながらチームの勝利に貢献すること。それがさらなる未来への成長へとつながっていく。

──打撃面は改善されてきましたが、守備や走塁にはもともと自信を持っている、武器なのではないかと思います。

オコエ 守備も走塁も、もっとできるんじゃないかというのは自分でも思っています。ただ難しいのが、守備や走塁というのは一番体に負担が掛かるところだと思っているので。これまでを振り返っても、自分の課題としてはケガというところが一番大きい。1カ月が過ぎて疲労を感じる部分はありますし、そこはしっかり考えながらやっていかないといけない。長いシーズンの中で、常にマックスを出すのではなくて、いかに高い水準を保っていけるかというのがすごく大事になってくると思いますね。1試合バーンって高いパフォーマンスを出すことができても、次の日がダメだったら、それではダメなので。

──あらためて現役ドラフトの成功のモデルケースになりつつあると思いますが、今、現役ドラフトという制度に思うところはありますか。

オコエ どうですかね。本当にこればかりは選手ではなく、あくまで球団が決めることなので。望んで動きたい選手にとってはいいチャンスになるとは思うんですけど、そうではない場合に、いきなりほかのチームへ行くとなったら自分でも不安だったんじゃないかなと思います。実際、報道からしか情報がない中で、自分も不安はありましたから。誰しもが考えていると思うんですけど、今後は本当に制度としてより良いものになっていけばいいなと思います。

──その中で、結果的にオコエ選手にとっては大きなチャンスになりました。

オコエ 自分のほかにも阪神の大竹さん(大竹耕太郎ソフトバンクから移籍)とか中日の細川(細川成也DeNAから移籍)とか、もっと活躍している選手はいますけど、うまくいっている人たちって、やっぱり絶対に自信を持った上でやってきていたとは思いますね。

──シーズンは続いていきますが、今思い描いている目標を聞かせてください。

オコエ 新しいチームで、まずは飛び抜けた活躍とかではなくて、1年間を通して勝利に貢献できるように頑張っていきたいです。

──具体的な数字のイメージなどはありますか。

オコエ いや、もう全然ないです。本当にチームにとってプラスになることができればそれでいい。もちろん盗塁とか、チームが求めるものに対してはアプローチをかけていきたいですし、打率だって上げられるだけ上げていきたい。ただ自分自身、まだ1年を通してやったことがないですから、まずは自分の力を出せるように頑張った上で、できるだけ多く試合に出て、来年以降に今年の反省を生かせるようなシーズンにしていきたい。そのためには数字ではなくて、毎試合毎試合、高いレベルで自分の力を出せるようにしていきたいです。

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