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世代交代は大切だが、思った以上に難しい。大切なのは年齢、実績ではなく、競争だ。先を見る監督の眼力も大きな要素だと思う【張本勲の喝!!】

 

今年の12月で35歳を迎える坂本。プロ17年目の今シーズンは勝負の年だ[写真=高塩隆]


今のままでは使えない


 野球に限らず、どのプロスポーツにも言えることだが、世代交代というのは必ず訪れる。どんなに活躍した選手でも年齢を重ねれば衰えは来るし、若くて生きのいいルーキーたちがどんどん入って来る。そういう意味では世代交代は個人競技であれ、団体競技であれ、なくてはならないものだし、その競技を活性化させる上でも必要なものだ。

 ただ、この世代交代はよく聞く言葉ではあるものの、なかなか簡単にはいかない。実績のあるベテランをいつまで使い続けていくのか、そろそろ先を見据えてと若手に切り替えて戦っていくのか、その判断が難しいということだ。プロは結果がすべてというのが私の持論だが、この世代交代に関して言えば、これは現場の最高指揮官である監督の腹ひとつであるとも言えるだろう。

 開幕から坂本勇人(巨人)の調子が悪かったことは、皆さんもご存じだろう。打席に入っても自信がなさそうだったし、テレビで見ていても打てる気がしなかった。原辰徳監督はそれでも我慢して使い続けていたが、やがてスタメンから外した。坂本と言えば球界を代表するプレーヤーであり、タイトルを獲得したこともあるチームの顔。20代のころなら、多少打てなくてもスタメン落ちはなかっただろう。

 坂本も今年で35歳。年齢を考えても先は長くはない。しかも遊撃というハードなポジションだ。チームからすれば、坂本にとって替わる選手にそろそろ出て来てもらいたいはずだ。案の定、マスコミは今こそ世代交代の時期だと書き立てていたが、坂本にすれば冗談ではない、まだまだやれるという気持ちだろう。

 世代交代のタイミングで分かりやすいのは、こういうときに替わりに入った若手が素晴らしい活躍を見せ、そのチャンスを一気につかんでしまうことだ。不振だけでなく、故障やケガの隙に入り込む場合もある。しかし、そこで結果を出せないでもたもたしていると、せっかくのチャンスを逃すことになる。

 不振が続く実績のあるベテランをスタメンから外す場合、私が監督なら本人を呼んで、このままでは使えないと外す理由を説明する。そんな説明など要らないという監督もいるだろうが、実績を残してきたということは、ここまでチームのために貢献してきてくれた選手なのだから、それなりの気遣いは必要だ。あえて突き放す手もあるが、選手と話し合っておくのも大事なこと。一番ダメなのは無視を決め込むことで、選手にとっては何も言ってもらえないという状況が一番つらい。

 坂本には、今のままでは使えないぞ、まだレギュラーで勝負していくのか、お前はあと何年やりたいのか、今後は代打でもいいのか、たまに試合に出る選手でいいのか……そう問い質していけば、おそらく「まだレギュラーでやっていきたいし、若手に負けない自信もあります」と答えるだろう。であれば、もう一度、心技体すべての面を鍛え直してこい、と告げるだけでいい。結果が出ていないのは本人が一番よく分かっているから、これで納得できるのだ。

 世代交代が難しいのは、その替わりになる選手がいないときだ。監督やチームには「この選手が出て来てくれれば」と推している選手が必ずいるはずだが、なかなか結果を出してくれないと苦しくなる。我慢して起用はしてみるものの、自ら結果を出して力でつかんだポジションではなく、与えられたポジションだからいかにもひ弱い。やがて首脳陣も我慢し切れなくなり、とっかえひっかえになっていくわけだ。そこもまた監督の眼力、采配によるところが大きいと思う。

選手生命の危機


 ベテランと若手が同じ実力ならば、伸びしろがある分、若手を使うという監督もいれば、実績のある経験豊富なベテランを使うという監督もいる。そこは監督の考え方次第で正解はない。ただ、新しい監督は若い選手を使いたがるし、誤解を恐れずに言えば、前の監督とは違う自分の色を出したがるものだ。

 私はパ・リーグに指名打者の制度が導入された1975年、極度の不振に陥った。原因は分かっていた。指名打者を任されたものの、味方が守りのときは気持ちの持ち方が難しかった。「守らなくていいから楽になったでしょう」と言われたが、まったくの逆だった。野球は打って走って守るスポーツ。それが私の体に染みついていた。しかし案の定、周囲からは年齢が不振の原因と指摘され、張本は終わったと言われた。それでも私は、なまった体を鍛え直せばまだできると自信を持っており、それはトレードされた巨人での活躍で証明してみせたつもりだが、あのまま日本ハムに残留していたら、世代交代を理由に翌年から出番は減り、すぐに戦力外になっていただろう。私より有望な若手がどれだけいたかは知らないが、日本ハムも球団名が変わって2年目、以前の東映色を払拭して新しいチームをつくりたいという狙いもあり、チームに残れなかったのは間違いない。

 少し話が逸れるが、クリーンアップを打つような主力選手を不振だからと言って、下位打線に置くケースがある。少しでも負担を軽くし、復調したらまたクリーンアップに戻す手だと思うが、私は反対だ。クリーンアップを打てないならスタメンは外すべきだ。ベンチでいい。チームがその選手に望んでいるのは何かということだ。打撃の神様と言われた川上哲治さん(巨人)なら、クリーンアップを外されたら「だったら試合に出ない」と言うだろう。それくらいのプライドがあったし、そこでチームに貢献できなければ何の意味もないと考えていたはずだ。

 坂本は絶不調だった開幕当初に比べて次第に調子を上げてきた。スタメンの座を取り戻して試合に出ているが、原監督にすればひと安心な部分と、その一方で坂本を一気に抜き去るような選手が出てこなかったのは残念だったと思う。

 世代交代を強引に行うとチームは低迷する。大切なのは年齢、実績ではなく競争であり、試合に出たければ結果を残すことだ。それができずに力の衰えを感じたベテランは、潔くユニフォームを脱ぐべきだ。

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