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たかが四球であり、されど四球なのだ。安打よりも相手にダメージを与える場合もあり、四球は投手のミスだから得点につながりやすい【張本勲の喝!!】

 

筆者の通算四球数は1274で日本球界では歴代5位の記録となる[写真=BBM]


ボール球には手を出すな


 数号前に大谷翔平(エンゼルス)が本塁打王のタイトルを獲得したら日米野球の歴史が変わると書いたばかりだが、その後も本塁打を連発し、現実味を帯びてきた。締め切り時点での本塁打数は40本。2位の選手(ルイス・ロベルトJr、ホワイトソックス)に11本の差をつけて、ア・リーグ本塁打王レースのトップを走っている。残り50試合近くあるから、まだ確実とも言えないが、問題はここからだろう。

 まず怖いのは故障による戦線離脱だ。投手との二刀流だけにそのリスクは、ほかの選手よりも大きい。実際、7月下旬には脇腹や両足ケイレンがあり、途中交代などを命じられている。あとは対戦相手が勝負してくれるかどうかもある。特にポストシーズン進出の当落選上にいるチームは、勝利のために大谷との勝負を避けるようになるだろう。四球に申告敬遠。そうなると、なかなか本塁打数は伸びて来ない。問題はそこで大谷が我慢できるかどうかだ。無理に打ちにいって、自分の打撃フォームを崩してしまっては元も子もない。なかなかストライクを投げてこない投手に対し、どれだけ打席で我慢し、集中力を切らさずに相手の失投を見逃さないかだ。

 吉田正尚(レッドソックス)も首位打者を狙える位置にいる。1年目であっぱれだが、本当に大谷が本塁打王、吉田が首位打者になったら、とんでもないことだ。たとえタイトルを逃したとしても、この8月の時点でその可能性があるということだけでもすごいこと。しばらくは2人の打席から目が離せない。

 さて、今回は大谷の話で出たからでもないが、「四球」について考えてみたい。

 例えば、その日の試合で3打席続けて凡退し、4打席目が回ってきたとしよう。私の現役時代でもよくあった状況だが、こんなときの打者心理は「1本(1安打)は打っておきたい」だ。もちろん試合状況にもよるが、4タコ(4打数ノーヒット)で終わるか、4打数1安打で終わるかは数字上はもちろん、気持ち的にもまったく違う。そうなると1安打欲しさに、打者は少々のボールでも手を出したくなるものなのだ。

 私のようなアベレージヒッターなら、なおさらその気持ちが強く、そこで強引に打ちにいって何とか安打にできればいいが、ボール球に手を出して三振に終わると、とても惨めな気持ちになる。我慢できなかった自分に腹が立つ。どうして四球でもOKと思えなかったのか。そこでしっかりと四球を選んでいれば、1安打は出なかったものの3タコで終われるわけだ。それが欲をかいたばかりに4タコになる。この差は小さいようで非常に大きいのだ。

 ちなみに日米野球の違いで言うなら、日本はじっくりとボールを見極めて粘って四球を奪うと評価されやすいが、メジャーはそれほどでもない。打者は四球を選ぶことよりも打つことが前提で、それが野球だと考えている。このあたりは投手と打者の1対1の力勝負を基本とするアメリカと、「スモールベースボール」と言われるように細かい野球を得意とする日本の違いだろう。どちらが正しいというのではなく、それぞれの野球に対する考え方だと思う。

四球から試合は動く


 四球で思い出すのは私の同期でもある王貞治(巨人)だ。通算四球2390、シーズン四球158(1974年)はどちらも日本記録。王と言えば、世界記録の868本塁打ばかりがクローズアップされるが、私はそれ以上に、この四球の日本記録をもっと評価してもらいたい。あれだけの本塁打を打ちながら、これだけの四球を奪っているのだ。

 先ほどの話ではないが、王は決して強引に打つことはなかった。無理にでもバットを振りたい打席はあったと思う。しばらく本塁打が出ていないときならなおさらだ。それでも打ちたい気持ちを抑えて四球を選び、一塁へと歩いたのだ。そして王のすごいところは、決して打席で集中力を切らさなかったことだ。投手が勝負してこないと分かっていても失投があるかもしれないと待ち、その一球を見逃さなかった。あの我慢、集中力は見事だった。

 現在の12球団で最も四球が多いのは阪神だ。聞くところによれば、岡田彰布監督が開幕前、球団に掛け合って「四球の査定ポイントを上げてほしい」と提言したとか。これは選手もうれしかったはずだし、だからこそ今の四球数がある。選手だって自分の生活があるから「四球を選んでも給料は上がらない」となれば安打を狙いにいく。3タコ、4タコの話と同じことだ。これはさすが岡田監督と言うところだろう。思えばV9時代の巨人・川上哲治監督もそうだった。本塁打や適時打を打ったヒーローだけでなく、その前の犠打、進塁打を打った選手もチームの勝利に貢献したと評価することで、あの強さがあったのだ。

 先頭打者への四球は得点になりやすいとよく言われるが、これは当たっている。四球は言ってしまえば投手のミスだからだ。もちろん状況によっては歩かせていい場面もあるが、ただ単にストライクが入らないのでは話にならない。特に同点や僅差の場面での四球は安打よりも得点になりやすいかもしれない。

 打者に粘られた挙句に最後は四球を出すくらいなら、初球を安打されたほうがいいと思うのは野手の本音だろう。守るほうも1球1球に集中しているわけだから、投手が四球、四球と続けると次第に集中力が落ちていく。失策はそういうときに起きやすく、それは明らかに守りのリズムが悪くなっているからだ。

 野球には試合の流れというものがあるが、それは四球をきっかけに動くことが少なくない。特に投手戦の場合がそうだ。1本の安打よりも1つの四球を選ぶことのほうが投手に与えるダメージが大きい場合もある。たかが四球、されど四球なのだ。

 ペナントレースも勝負の8月を迎えているが、簡単に四球を出さない投手、しつこく粘って四球を奪える打者、そうした選手が多いチームは生き残っていくはずだ。もちろん四球だけで勝てるほど野球は甘くない。四球をうまく絡めての適時打というのが理想の形だと思う。

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