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裏方が見たジャイアンツ

香坂英典コラム 第98回 全府中野球倶楽部【3】

 

全府中で投手コーチを務めることになった筆者。当初の背番号は「61」だった


常に意識したのは選手との距離感


 2010年12月をもって、引退から35年、お世話になった読売巨人軍を僕は退団した。その後はさまざまな縁からこうして週刊ベースボールでコラムを連載するようになり、さらに伝統ある全府中野球倶楽部(以下、全府中)にかかわるようになった。しかも、それは投手コーチとして、だった。

 クラブチームに所属し、コーチとして活動することは初体験だったが、まずは早くその環境に慣れなくてはと思っていた。全府中に入部当初は当然、ナインの名前も顔もまだまったく一致しない。それでも、僕は非常にワクワクしながらグラウンドへ向かった。

 僕が入部して間もなくの2021年11月。第22回あきる野市長杯争奪社会人野球クラブチーム交流戦が行われた。東京のあきる野市民球場に所沢グリーンベースボールクラブ、新波クラブ、全川崎クラブ、西多摩倶楽部、そして僕たち全府中の6チームが集い、総当たりのリーグ戦形式で戦う。ただ、季節も11月ということで日によっては気温が低い日もあり、必ずしも好コンディションという日ばかりではなかった。

 僕は、まずは球場のネット裏から試合を見ることにした。巨人軍でしていた先乗りスコアラーやプロスカウトと同じように、ネット裏の投手と捕手を結ぶ一直線上の位置の席に座って、スコアカードを片手にボールを追うことにしたのだ。まあ、このアングルが野球を見る上においては一番良く見え、何でも分かる。

 オフシーズンに入る直前に行われる、このあきる野市長杯はプロ野球が同時期に開催するのと同様、若手選手中心の「秋の教育リーグ」的な要素が含まれている。普段から試合出場のチャンスが少ない選手でも、来シーズンに向けてその力をアピールができる場であるということだ。僕は試合全体を見渡せるネット裏の位置に陣取り、チームの戦いぶりを見て、選手個々のプレーに対して、必要であればアドバイスをしたり、自分の意見を述べたりして、改善につなげてもらうようにコミュニケーションを取ることができればいいなと思った。

 僕の専門は投手部門なので、特に投手を見るときには自然と力が入る。でも、僕はチームの中でも部長の相田征一さんに次ぐ二番目の年長者なのだ。さすがに自分の息子と同じくらいの選手も多いこのチームで、なかなかコミュニケーションを活発には取りにくいことも感じていた。

 僕は試合後のミーティングで、ひと言ナインに対して意見を述べさせてもらっているが、そのときに言ったことがある。

「僕を利用してくれ」

 確か最初のころに、そう言ったと記憶している。これは、選手に何かを教えようというつもりで言ったのではなかった。その意図は「話し掛けてくれ」ということだった。でも・・・

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