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中日・藤嶋健人インタビュー 無欲な『便利屋』「一軍にいることが欲。一軍にいてこそ投げられるし、仕事ができる」

 

昨年はチームトップ&自己最多の56試合に登板した。リードしているとき、されているとき、そして同点のとき。どんな試合展開でマウンドに上がるかは分からないが、自分の名が告げられることに喜びとやりがいを感じている。チームのために任されたところで自分の投球をするだけだ。
取材・文=牧野正 写真=橋田ダワー、宮原和也、BBM


普通であること


 昨年11月の契約更改。報道陣の前にスーツ姿で現れた藤嶋健人は開口一番、「7000万円で契約してもらいました」と笑顔を見せた。藤嶋らしいと思ったのは、記者が何を一番聞きたがっているか、それを分かった上での発言だったことだ。同時に額が少ないとも思った。

 主に中継ぎとしてチームトップの56試合に登板し、1勝1敗4セーブ14ホールド。50回2/3を投げて自責点6の防御率は1.07。自責点の内訳は阪神3、交流戦3。阪神を除くセ・リーグ4球団はゼロと完璧に抑え込んでいる。つまり4球団に対しての防御率は0.00。投手陣がへばり出す夏場には28試合連続無失点を続けた。前年から2400万円アップ(推定)の評価は果たして妥当なのか。昨年の1年だけではなく、この3年は常に結果を残し続けているからこそ、それなりの対価を得てもいいと思うのだ。もし先発投手が3年続けて結果を残したら……。「契約してもらいました」という言葉の中にも、藤嶋らしさが詰まっていた。

 2月の春季キャンプ某日。昨シーズンの活躍の要因について藤嶋に尋ねると、首を大きく傾けた。

「う〜ん、何だろう。何なのか、よく分からないですね(笑)。あまり理想を求め過ぎないってことですかね。調子の波があってはいけないので、普通が一番という考えになったのはあると思います。張り切り過ぎてもダメ、毎回そんなに完璧なピッチングなんてできないじゃないですか。三者凡退とかが一番いいんですけど、走者は出してもいいというか。完璧を求めず、普通の感じを1年間続けることが一番大事だということを感じ始めるようになりました」

 球種は真っすぐとフォーク。あとはカーブがある程度。真っすぐは150キロに届かず、フォークもそれほど落差があるわけではない。「細かいコントロールはそもそもないんです」という本人の言葉からも分かるように、制球力で勝負する投手でもない。

「何でしょうね。テークバックが小さいから、昔から(打者は)見づらいとはよく言ってもらえますけど。昔はもっと大きかったんです。プロに入って上原さん(上原浩治、元巨人ほか)のフォームを参考にして、そこは意識してきました」

 球種を増やすことは考えているか、という質問には即答だった。

「全然ないです。投げるセンスもないですし。だったら真っすぐを磨きます。ツーシームを投げたい欲がないことはないですけど……やっぱり要らないかな。逆にすべてのボールが中途半端になって打たれるんじゃないですかね」

冷たい右手


 愛知県豊橋市で生まれ育ち、地元の東邦高へ進学した。打撃も素晴らしく、高校通算49本塁打。四番・エースで甲子園に出場し、2016年秋のドラフト5位で投手として中日に指名された。ルーキーイヤーは二軍で過ごしたが、2年目にプロ初登板を果たすと19試合に投げて3勝をマーク。悪夢に襲われたのは、3年目が始まる19年1月の自主トレ期間中のことだった・・・

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