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【MLB】メジャー・リーグ年俸調停 なぜ金額のちょっとした差にこだわるのか

 

この時期に盛んに行われる年俸調停。選手たちは少額の差でも、球団の希望額よりも上に行くことで、その後の選手たちにも影響することがあるため、妥協せず球団と争うのだ[写真は2019年に17勝、21、22年と連続14勝を挙げた左腕のフリード]


 2月に入り、MLBでは年俸調停の公聴会が行われている。1月中旬に提出されていた選手と球団の希望額に対し、3人の調停人が双方の言い分を聞いて、どちらが妥当なのか裁定を下す。2月9日時点で、最も金額が大きかったのはブレーブスのマックス・フリード投手の調停だ。

 フリードの希望額1500万ドルに対し球団のカウンター額は1350万ドルだった。結果としてマーク・バーステイン、フレドリク・ホロウィッツ、ジーン・ボンホフの調停人は、球団の額が妥当とした。フリードは敗れはしたが、それでも前年の685万ドルから2倍近い昇給を得ている。

 双方の希望額が最も離れていたのはアストロズのカイル・タッカー外野手のケース。2021年が打率.294、30本塁打、92打点、14盗塁。22年が.257、30本塁打、107打点、25盗塁で、タッカーは22年の年俸76万2400ドルから10倍近い750万ドルを希望、球団は500万ドルの提示だった。

 こういった100万ドル以上も希望額が離れているケースは、調停までもつれても仕方がないが、おやっと思うのは、大して差がないのに公聴会まで行くケース。例えばマーリンズのユーティリティ選手、ジョン・バーティは22年、打率.240と低かったが、41盗塁を決め(成功率89%)盗塁王になった。希望額は230万ドルで球団のカウンター額は190万ドルと差は40万ドルだった。左腕のヘスス・ルサルドは18試合に先発し100.1イニングを投げ、防御率3.32。希望額は245万ドルで球団のカウンター額は210万ドルと差は35万ドルだった。

 マリナーズのリリーバー、ディエゴ・カスティーヨも希望額322万5000ドルに対し、球団の額は295万ドルと27万5000ドル差だった。これくらいの違いなら、間を取って妥協するなどできそうなものであるが、なぜキャンプが始まる2月の公聴会までもつれてしまうのか? しかも公聴会では、球団は自分たちの額の正当性を強調すべく選手の悪いところを並べたてる。結果、しばしば関係にひびが入る。公聴会まで行って、その後もそのチームに長くいた選手は少ないのである。

 それでも戦う理由は、わずかな差でも、その後のほかの多くの選手の契約にインパクトをもたらすからだ。3人の調停人は野球の専門家ではない。むしろ知らないほうだ。どちらが妥当かを判断するのに彼らが参考にするのは過去の数字。同じくらいのプレー年数で、成績も似た選手の昇給額を参考にする。つまり個々の年俸調停の結果は特定の球団対選手の懐具合にとどまらず、その後の調停に直接影響する。だから27万5000ドルや35万ドルであっても簡単に妥協しない。

 通常30球団はライバル同士でゲームでも、FA戦線でもトレードでも敵を打ち負かそうとするが、1年に一度調停だけは団結して、相場が上がり過ぎないように努力する。反対に選手とその代理人たちも少しでも上げようと手を携える、その積み重ねだ。

 MLBの年俸調停制度は1974年に始まり、昨年まで球団側が334勝251敗と勝ち越している(勝率57%)。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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