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【MLB】新ルール効果、スピードを絡めた多彩な戦術が復活

 

けん制の新ルールを生かし、足を使った攻撃で逆転勝利をつかんだダイヤモンドバックス。今後こういうチームが増え、よりエキサイティングな試合が見られるかもしれない[写真はぺルドモ]


 4月4日のダイヤモンドバックス対パドレス戦は、ダルビッシュ有が5回1失点の好投で勝ち投手の権利を得ながら、終盤ひっくり返され逆転負けと日本のファンにとっては残念な結果だったが、MLBファンにとってはとても興味深かった。

 周知のとおり、MLBは今季から新ルールを導入、野手がスピードを生かし、打って走ってとアクションが増えるようにとデザインされた。それがまさにはまった逆転劇だった。4対5の8回、ダイヤモンドバックス先頭の六番マッカーシーが左前打で出塁。七番トーマスのときに1ボール1ストライクから良いスタートを切った。

 ファウルで一塁に戻ったが、次も完ぺきなスタートで悠々セーフ。トーマスの二ゴロで三塁へ。八番ペルドモがセーフティスクイズで同点。カーペンター一塁手が処理し損ね、ペルドモも生きた。九番ヘレラのときにペルドモは初球盗塁。ヘレラが中前適時打で逆転。この回、足でかき回され続けたガルシア投手は気が動転していたのだろう。次の一番ロハスのときに一塁にけん制悪送球で進塁を許した。走者ヘレラは捕手。盗塁の可能性は極めて低いにも関わらず、投げてしまった。続くロハスにも四球を与え、投手はハニーウェルに交代。二番マルテも右前打で満塁。三番グリエル・ジュニアが中犠飛で3点目。

 なおも二死一、三塁のチャンス。ここでダイヤモンドバックスはダブルスチールを敢行、ノラ捕手は二塁に投げたが、一走のマルテは途中で立ち止まり、その間に三走のロハスが本塁突入。クロネンワース二塁手の返球を受け、ノラがタッチに行くがかわされた。仮にタッチできていたとしても、ノラ捕手は本塁ベースを足でブロックしており、ルールでセーフになっただろう。

 このイニングはトータルで21分間。ダイヤモンドバックスはMLBの期待どおりの野球を披露したのだった。昨季との違いはけん制球の回数が制限され、ベースが大きくなり、とても走りやすくなったこと。対照的に守る側は、近年足で揺さぶられることが少なかったため、きちんと守れない。

 ピッチクロックの影響も大きい。試合終盤は95マイルから100マイルの剛速球と切れ味鋭い変化球を投げるリリーフ投手が交代で出てきて、時間をかけ1球1球目いっぱい投げるため、打者はバットに当てるのも難しかった。

 しかし今季は次々に投げないといけない状況で、走者を出すと、得てして足の揺さぶりに弱い。ちなみに若い選手が多いダイヤモンドバックスは、こういう野球をやろうとキャンプ中から用意していた。だから地元テレビの実況解説者は8回が始まるとき、「今から陸上競技会を始めよう」と声をかけたが、まさにそのとおりの展開になった。

 オリオールズ、レイズ、ガーディアンズなどがこういった野球ができるメンバーをそろえている。まだ半分以上のチームが昨年までと変わらない野球だが、彼らが勝ち続け好成績を上げれば、マネをして、マイナーから走れる選手を昇格させ、戦い方を変えるかもしれない。

 近年のMLBでは戦術の多彩さや、試合終盤何が起こるか分からないドキドキ感が失われていた。知恵を絞った駆引きこそ野球の醍醐味と言える。今年はそれを取り戻すシーズンになりそうだ。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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