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【MLB】投手主導のピッチコムで、投手の意識がもっと高くなる

 

ピッチクロックに対応するために、今季から投手がピッチコム[写真]を使用できるようになった。このおかげで頭を使える投手は、配球を組み立て、自分の投球ができるようになった。ピッチクロックを投手が利用するという状況も出てきた


 パドレスのダルビッシュ有投手は4月10日のメッツ戦で6回1/3を投げ、6安打1四球5失点。この数字だけを見れば内容的には良くないが、実際には相手打者を圧倒しており、すごく良い投球だったと思う。

 今季からのルール改定で、投手が自分で球種を選択し、ピッチコムで捕手に伝達して投げられるようになったが、ダルビッシュは次の登板に備え誰よりもデータや映像を熱心に見てプランを立てているだけあって、投げた直後に次の球種が決まる。

 最も早いときには、捕手がボールを投げ返してくる前に、ベルトに装着したピッチコムに触り、サインを出していた。メッツの打者たちはそのスピード感についていけていなかった。球種の多いダルビッシュは、昨季までなら、捕手が投げたい球をコールするまで何度も首を横に振らねばならなかった。その無駄を省くことができ、15秒なり、20秒を自由に使って自分のテンポで投げられる。

 エンゼルスの大谷翔平投手も新人のローガン・オホッピー捕手が相手ということもあり、自分でサインを出している。もちろん打者が打つ構えを取るまで待たないといけなかったり、投球の始動を審判に分かりやすいようにするなど細かいアジャストがあるが、ダルビッシュのような投手には、とても良い変更だと思う。

 ホワイトソックスのエースで、昨季ア・リーグのサイ・ヤング賞投票で2位になったディラン・シースも良いリズムで投げられると歓迎している。「捕手のサインをのぞき込んで球種を決める5、6秒の無駄がなくなる。試合までの準備がより大変になるけど、ピッチクロック時代の今、無駄をなくしてより合理化しないといけない」と指摘する。

 もともとメジャーでは、球種の選択は捕手主導ではなく、投手主導でという考え方があった。ホワイトソックスのリック・ハーンGMは「長年私たちは投手に、何を投げるかを自分でコントロールして欲しいと言ってきた。自分のキャリアだし、捕手に頼るのではなく、自分の選択に確信を持つべきだと。そうでないと良い球は投げられない」と説明する。

 もちろん投手はこれまでも首を振れば自分の投げたい球を投げられたが、最初から自分で組み立てるのとでは次元が違う。シースは今季ここまで3試合に登板、16.1イニングを投げ、2勝0敗、防御率1.65、24個の三振を奪っている。ハーンGMはほかの投手もシースを見習ってほしいと考えている。

 ご存じのように、ピッチコムはアストロズのようなチームがサイン盗みができないよう導入された。その目的は達成されているが、その上で投手がより高い意識をもって試合に臨める。シースも「まるでビデオゲームをやっているみたいだけど、これで投手として次のレベルに行けると思う」と話している。MLBはオープン戦で、投手が主導するピッチコムを試用させ、問題が出なかったために3月24日に、公式戦でも採用すると決定した。

 ロイヤルズのベテラン投手のザック・グリンキーも使用。4月5日のブルージェイズ戦では自分で出したサインに自分で首を振って真っすぐを投げてブランドン・ベルトを空振り三振に斬って取った。コミカルな姿がネットでも話題になった。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

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