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【MLB】カンファレンス再編成でNCAAの大学野球はどう変わるのか

 

お金のために地区を移籍する大学が出てきているが、それは学生の負担や、野球部の減少に影響していく側面もある[写真は今季サイ・ヤング賞のゲリット・コールのUCLA時代]


 アメリカンフットボールやバスケットボールと違い、NCAAの野球は莫大な収益をもたらす超人気スポーツではない。しかしながら野球はアメリカの国技であり、ディビジョンIでは約300チームが31のカンファレンスに分かれ、毎年戦っている。

 その中からUCLAのゲリット・コール(2011年のドラフト全体1位)など将来のMLBのスターが育ってくる。桧舞台は76年の歴史を持つカレッジワールド・シリーズでダンスビー・スワンソン(バンダービルト大)のように同大会とMLBのワールド・シリーズの両方で優勝経験を持つ選手もいる。

 カンファレンスの中で、現在最もレベルが高いのは「サウスイースタン(南東)カンファレンス/SEC」。過去4度の大学チャンピオンはすべてSECから出ている。カレッジワールド・シリーズ最多優勝を誇るのはPAC(太平洋岸)12で29度、中でもUSC(南カリフォルニア大)は12度も王者に輝いた。

 ほかアリゾナ州立大が5度、アリゾナ大が4度、オレゴン州立大が3度、スタンフォード大も2度である。ところがそのPAC12から10校が抜け、24年8月から2校に減ってしまう。USC、UCLAなど4校がビッグテン(中西部と東部)に、アリゾナ大とアリゾナ州立大がビッグ12(中部)に、スタンフォード大など2校がアトランティックコースト(大西洋岸)カンファレンスに移り、オレゴン州立大とワシントン州立大だけになってしまった。

 ほかのカンファレンスでも、ビッグ12だったテキサス大とオクラホマ大がSECに編入する。以前は地理的に区切られていたカンファレンスで、こういったダイナミックな再編成が進んでいるのはビッグマネーが原因だ。とりわけアメリカンフットボールはカンファレンスに莫大なテレビ放映権料収益をもたらす。ビッグテンは22年、CBS、FOX、NCBと7年総額80億ドル(約1兆1774億円)の大型契約を結び、加盟校への分配金は年に8000万ドルから1億ドルとも言われている。

 ビッグカンファレンスは有名校が欲しい。もちろん有名校も潤沢な分配金が欲しい。21年にテキサス大とオクラホマ大、22年にUSCとUCLAの移籍が発表されたのを皮切りに、他校も続き再編、PAC12は分割された。

 問題は無茶な再編が野球にとって必ずしも良くないことだ。西海岸のチームは東海岸のチームとカンファレンス内の3試合のシリーズを戦うために、シーズンに少なくとも4、5度は大陸を横断する。授業もあるため、木曜の夜か金曜の早朝の便で、片道5、6時間の長いフライト。寝不足になり良いコンディションで試合に臨めない。

 しかも長距離移動はよりお金もかかる。分配金が少ないカンファレンスだと、野球部をあきらめる大学も出てくるかもしれない。実際、近年ボイズステイト、ファーマン大、ノースカロライナセントラル大、シカゴステイト、ラサール大などは野球部を廃部にしている。

 加えてわずか2校になったオレゴン州立大とワシントン州立大は有力な高校生をリクルートするのも難しい。オレゴン州立大は19年全体1位指名のオリオールズのアンドリュー・ラッチマン捕手の母校である。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

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