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【MLB】巨額の後払いでぜいたく税対象の年間サラリー額を大幅削減、その仕組みは?

 

大型の後払い契約を結んだ大谷翔平[中央]。彼の発案をバレロ代理人[左]が労使協定を確認して進めた。それにより実際の価格価値は下がるが、それだけ勝ちたい意志を見せたとも言える


 大谷翔平の10年総額7億ドルの大型契約のうち6億8000万ドルが後払いとなり、ぜいたく税の対象となる大谷の年間サラリー額が7000万ドルではなく4600万ドルと2400万ドルも少なく計算されることが大きな話題になった。大谷は自身の大型契約によって、所属球団が戦力補強しにくくなる事態を危惧し、契約したドジャースだけでなく、交渉した全球団に、このアイデアを持ち掛けていたのだ。

 なぜ、ぜいたく税の対象となるサラリー額を減らせるのか。例えばドジャースと以前に契約したムーキー・ベッツは2021年から32年の12年総額3億6500万ドルのうち、1億1500万ドルを33年から44年の後払いにし、無利子で受け取ることに合意した。インフレがあるため、後払い分の価値は今と比べて著しく下がる。

 そこでMLB機構と選手会は、後払い分については、価値が下がるものと考えて計算し直す。ベッツの後払い分は5835万ドルも価値が落ち、トータルでベッツの契約価値は3億665万7882ドルになると弾き出された。それを契約年数の12年で割ると2555万ドルで、この額をぜいたく税の対象となるチームのサラリー総額を計算するときに当てはめる。

 ところで、MLBで後払いが初めて大きな話題になったのは1984年12月、ブレーブスのテッド・ターナーオーナーがFAのブルース・スーター投手を引き抜くのに、6年総額960万ドルの契約を与えたときだ。その内半分を13%の利子が付く後払いにした。おかげでスーターは引退から30年間、毎年130万ドルを受け取り、もらった金額は総額で4500万ドル近くに上っている。

 スーターのころにはぜいたく税はなかったが、今、こういった高い利子の後払い契約にすると、ぜいたく税の対象となる選手のサラリー額は下がるどころか、逆に上がってしまう。現行の労使協定ではこう規定されている。

 後払いのサラリーに付く利子が、契約開始の前年10月のアメリカ中期金利(23年10月は4.43%だった)の上下1.5%以内。つまり2.93%から5.93%であれば、後払いであっても、契約期間内に払ってしまうサラリーと同じ扱いで、ぜいたく税の対象となるサラリー額は変らない。

 仮に、後払い金に5.93%以上の利子を付けた場合、つまりスーターの契約のような場合は、ぜいたく税の対象となる選手のサラリー額は上がる。大谷の後払い分はベッツと同じく無利子で、契約が終わった翌年の34年から43年までの10年間で1年に6800万ドルずつ支払われる。この金額の価値がどれだけ下がるかは、4.43%の中期金利を使って、先延ばしになった年数分割り引いていく。

 10年分を計算すると約4億4000万ドル。この額に契約期間内に払ってしまう2000万ドルを足して、総額は約4億6000万ドル。契約年数で割って1年4600万ドルになる。大谷は計算上では2億4000万ドルも価値を損することになるが、何よりも大谷本人の発案で、ネズ・バレロ代理人が労使協定を調べて、ルール上後払いに金額と年数の制限はないことを確認したのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

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