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【MLB】肘のケガでエース級が相次ぐ離脱 要因についてMLB機構と選手会が対立

 

28歳で今季2勝を挙げていたビーバーも右肘痛で離脱しトミー・ジョン手術を受けることになった。多くのエース級が離脱している今季、その要因はMLBと選手会で協力して解明すべきだろう


 ガーディアンズのシェーン・ビーバー、マーリンズのエウリー・ペレスがトミー・ジョン手術を受けると発表、ブレーブスのスペンサー・ストライダーも肘の側副靱帯に損傷を負い手術の可能性が高い。エース級の相次ぐ離脱にMLBが揺れている。

 選手会は2023年に導入されたピッチクロックと、今年改訂された走者が塁上にいるときの2秒短縮に焦点を当て「深刻な変更の影響を認識せず、研究も拒否するリーグの姿勢は、われわれのゲームと選手に対する前例のない脅威だ」と批判した。しかしながらMLB機構にとってピッチクロックは試合時間短縮につながり、ロブ・マンフレッドMLBコミッショナーの最大の功績の一つとなっているだけに、それが問題とは認めたがらない。

 大学の研究をもとに「ピッチクロックがケガを増加させた証拠はない」と主張している。実はMLBは昨年10月からピッチャーのケガに関して包括的な研究を行っている。医師、トレーナー、独立した研究者、アマチュア野球のコーチ、元投手、フロントなど、数多くの関係者をインタビューし、要因を調査している。近年トミー・ジョン手術の回数は急増しており、23年はマイナー・リーガーも含めて263件、これは11年の2倍以上だ。MLB機構が問題と見ているのは、球団が試合に勝つために、より速い球を投げ、よりスピンのきいた変化球を投げる投手を求めるようになっていること。

 大ベテランのジャスティン・バーランダーは「大きな要因はピッチングスタイルが変わったこと。みんなが1球1球、目いっぱい、より速く、よりスピンさせて投げようとしている。自分の場合は、16年にボールが飛ぶようになり、誰でも反対方向に本塁打を打てるようになって、アプローチを変えないといけないと悟った。空振りを取らないと抑えられないと」と証言している。

 以前の先発投手は、長いイニングを投げるために力をセーブし、ここぞというときだけ目いっぱいの力で投げた。だが球団はもはや先発投手に長いイニングを求めず、次々にリリーフ投手を投入する。だから先発投手も試合開始から目いっぱい投げ、100マイル超えの先発も現れた。だが、全力で投げ続けたのでは、肘の靭帯はもたない。加えてピッチデザインの流行も問題視されている。テクノロジーを利用し、握りや腕の振り方を改良し、より強力な直球や変化球を投げられるようになったが、それが肩肘に負担を与えている。

 MLB機構は調査を進め、今季後半にはタスクフォースを設立、ケガ防止にあたらせる。問題はそのプロジェクトに今現在、選手会が参加していないこと。ピッチクロックについての見解で対立しているからだ。嘆かわしいことは投手の健康が危険にさらされているというのに、政治的な駆け引きをしたり、責任転嫁をしている場合ではないということ。機構もピッチクロックのことを調べるべきだろう。

 MLBの投手のキャリアは平均で2.7年。すごい球を投げても、短期間でヒノキ舞台から去っていく。両者が協力して、この状況にストップをかけないといけない。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

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