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4年間、苦楽をともにしてきた明大のチームメートと歓喜の胴上げ



文=沢井史 写真=松村真行

「いずれはホームランのタイトルを取れるよう頑張ります」


 ギュッと一文字に結ばれた口は、自らの名前がコールされた瞬間に緩み、やがて穏やかな表情に変わった。「本当にうれしいです。伝統のあるチームで、しかも上位での指名。期待に応えられるよう頑張ります」

 この日の朝はいつもより2時間早い5時半に起床し、後輩の大西律暉を誘って近くの辨天宗の寺にドラフト指名祈願するために参拝した。「今日は指名されますようにとお願いしてきました。でも1位というのはビックリしました。指名されたらいいなって思っていたので……」

 高校通算73本塁打という豪快な代名詞に目を奪われるが、実はナイーブで周囲への気遣いを忘れない人の良さが岡本和真という人格を形成する。「とにかく控えめで前に出ることを好まない。目立つことが好きではないですね」と井元康勝部長。

 ちょうど1年前の昨秋、本塁打を量産するパワーに注目が集まり始め、高校野球各誌で表紙を飾るほど名実ともに評判を呼ぶようになった。だが、当の本人は「自分ばかりが目立っていいのだろうか」と戸惑いを隠せず、取材を受けることすら後ろ向きになってしまったことがあった。それでも温かく見守ってくれたのがチームメートや小坂将商監督だった。「みんな気軽に声を掛けてくれて、自分に負担がかからないように気を配ってくれました。自分は野球を始めてから指導者や仲間などに恵まれてきた。本当に感謝したいです」

 取材を終え、グラウンドに向かうと寄せ書きや手作りのくす玉が用意され、歓喜の輪を作ったチームメートが岡本の1位指名を迎える。その輪の中にうれしさを噛みしめた岡本が吸い込まれていく。「ここでは人として成長させてもらった。智弁に入ったことが自分の財産です」と潤んだ目で振り返った。

 もちろん、プロに向けての準備も着々と進めている。「自分の打撃を評価していただいたと思います。もちろん少しでも早く一軍の舞台に立てるようになりたいですが、ケガをしてしまっては元も子もない。今からしっかり体を作って準備をしていきたい」

 甲子園が終わり、18Uアジア選手権のタイから帰国後も、毎日グラウンドに出て練習を積んでいる。丸1日オフを……とも思うことも多々あるが、「自分は私服より練習着の方が自然でいられるんです」と気がつけばバットを手にしている。そんな真っすぐな18歳が、来春、名門ジャイアンツの門をたたくことになる。「いろいろ話を聞いてみたいのは村田選手。スター選手ですし、(三塁の)守備のことも含めていろんな話をうかがって勉強させてもらいたいです」

 今春のセンバツでは2本の本塁打、そして18Uアジア選手権では不動の四番を務め、全5試合でヒットを放った打棒と、大きな舞台での経験も引っ提げ、大きな可能性を秘めた大器。今後は名門球団ならではのさまざまなプレッシャーとの闘いも待っている。だが、小坂監督は「人間性はしっかりしている。人に愛される選手になってほしい」と期待する。「縮こまったバッティングをしてしまっては何の意味もない。いずれはホームランのタイトルを取れるよう頑張ります」と本人も目を輝かせた。

原監督のお面をかぶったチームメートとグータッチ。東京ドームの舞台で本物のグータッチを1日でも早く実現させたい



PROFILE
おかもと・かずま●1996年6月30日生まれ。奈良県出身。183cm95kg。右投右打。小学1年時にカインドで野球を始める。五條東中時代は橿原磯城シニアに所属。3年時にはシニア日本代表四番。智弁学園高では1年春からベンチ入りし、夏以降は四番。14年春のセンバツでは1回戦(対三重)で2本塁打。今夏は1回戦敗退(対明徳義塾高)。高校通算73本塁打。14年の18Uアジア選手権では5試合19打数9安打、打率.474、5打点
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