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第1回 IBAF21Uワールドカップ

21U侍ジャパン、初代王者ならず

 

決勝では守備に綻びも
全体的に質の高い野球を示す


 国際野球連盟(IBAF)が主催し、台湾・台中で開催された21U(21歳以下)ワールドカップ。WBC、来年台湾で第1回大会が開催予定の「プレミア12」に次ぐ国際大会として位置づけられ、11カ国が参加。台湾が優勝決定戦で日本を破り、初代王者に輝いた。

 選手の参加資格は1993年以降生まれであること。さらに91、92生まれの選手を対象とした「オーバーエイジ枠」が登録6人、同時出場が3人まで認められた。日本代表はプロアマ混成。プロは大谷翔平(日本ハム)、藤浪晋太郎(阪神)らが同時期開催の日米野球に出場するトップチームに選出、松井裕樹(楽天)、森友哉(西武)ら今季一軍で活躍した選手も外れた。一軍実績があるのは投手では中村勝上沢直之(ともに日本ハム)、野手は鈴木誠也(広島)、近藤健介(日本ハム)ら数人だった。

 アマも大学の神宮大会、社会人の日本選手権に出場していない阪神のドラフト1位・横山雄哉(新日鐵住金鹿島)、中日の同1位・野村亮介(三菱日立パワーシステムズ横浜)、畔上翔(法大)らが選出された。

 世代最強とは言えないメンバーで臨んだ国際大会。台湾との優勝決定戦こそ横山が適時失策を犯すなど綻びを見せたが、大会を通して質の高い野球を見せた。優勝候補に挙げられていた韓国、台湾も日本戦でもろさを見せた。14日の2次ラウンド・日本対韓国戦。韓国は5回一死一、三塁で武田健吾(オリックス)が放った正面のゴロを、遊撃手が半身で捕球態勢に入ろうとしてグラブにも当てられずに後逸(記録は左前適時打)。この1点で試合が決まった。

 15日の同・日本対台湾戦は、台湾が捕手の失策で決勝点を与えた。また、日本が3点リードの9回一死三塁も前進守備を敷きながら、遊撃正面のゴロで三塁走者を生還させ、試合の勝敗を決定づけた。

 日本は全8試合で1失策。投手はメジャー仕様の硬いマウンドで好投、内野手は日本では珍しい天然芝のグラウンドに対応。他国が暴投、四球、失策で失点を重ねる中、日本はスモールボールで得点を奪い、強固な守備で失点を防ぐスタイルを実践した。

▲決勝の台湾戦の2回表、1点を先制された日本はなおも一死満塁のピンチでマウンドに上がった横山が楊岱均を投ゴロに仕留めるも本塁へ悪送球。ミスが重なった日本はこの回3点を失った



異国の地で戦ったかけがえのない経験


 代表監督は、今季まで阪神二軍監督で、来季から一軍ヘッドコーチとなる平田勝男監督が務めた。阪神と同様に歯に衣着せぬ発言で、正面から選手と向き合うスタイルを貫いた。

 東京での合宿中。ある選手2人が寝坊した。平田監督は全員がそろったバスの中で怒鳴ったという。銀メダルを獲得した88年のソウル五輪の代表監督で、全日本野球協会副会長の鈴木義信氏は「選手を預かる立場としてはなかなか言えない。あれでチームがピリッと締まった」と振り返った。締めるときは締め、褒めるときは褒める。育成が主な目的となる二軍でのプレーばかりだった選手にとって、首脳陣が作り上げた緊張感の中、勝利最優先で試合に臨んだことは財産となったはずだ。

 また、アマにとっても貴重な経験となった。畔上は「プロは試合への集中力が違う」とプロとの意識の違いを感じ、桜井俊貴(立命館大)は「台湾の大歓声の中で投げたり、普段できない雰囲気を経験できたりして良かった」と振り返った。侍ジャパンの鹿取義隆テクニカルディレクターは「今のメンバーがこれから結果を残して、次の代表へと上がっていくことが理想だね」と話した。選手が日の丸への思いを強め、トップチームの存在意義を強めるには、素晴らしい機会となった。

今後の改善材料は多い望まれるレベルアップ


▲2次ラウンドの韓国戦で1対0で勝利するなど、全勝で決勝に進んだ日本だったが……



 しかし、大会自体は未成熟すぎた。世界的な野球の普及、底上げを狙う大会として位置づけされているのであれば今後の改善材料は多い。まず、レベルアップのためには強豪国、有望選手の参加が必要だ。

 韓国こそ24人中15人のプロ選手を集めたが、台湾はプロが3人。米国は大学のリーグ戦と日程が重なり、キューバも予算の問題で不参加だった。今大会には情報収集のために20球団ものメジャー球団のスカウトが訪れていたが、そこまでの価値があったのだろうか。あるスカウトは「有望株と言われる若手も、メジャーの球団から出場許可が出なかったようです。MLBの監視下ではない大会ですから。日本、韓国、台湾以外では、オーストラリアの何人かがメジャーに上がるチャンスがあるぐらいですね」と話したほどだ。

 成長過程の年代とはいえ、欧州は最速が130キロに満たない投手が多数いた。日本代表のあるプロは「球が遅すぎる」と口にした。1次ラウンドでは25試合中9試合で10点差がつき、5試合がコールドゲーム。実力差が大きく、全体的なレベルが高いとは言えなかった。

 耳を疑う出来事もあった。ある国は攻撃中に、スタンドに響く大きな笑い声を発する選手がいた。ある国は試合前の練習で使用するボールをホテルに忘れ、日本代表に借りたこともあった。文化の違いがあるとはいえ、プレーのレベル以前に、この大会の位置づけに疑問を抱かざるを得なかった。

 ただ、まだ第1回大会が終わったばかりだ。改善点を洗い出して、2016年にメキシコで開催予定の第2回大会への糧としなければならない。鈴木が印象的なコメントを残している。

「他国になめられたくない気持ちが強い。日本が一番だと思ってプレーしている」

 少なくとも侍は代表としてのプライドを持って戦った。この気持ちが日本代表のレベルアップ、WBCの世界一奪還へとつながっていく。現状では日の丸を背負う機会は少ない。日本野球界の協力の下、21Uワールドカップが発展することを願ってやまない。
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