2000年に東海ラジオに入社し、竜の上昇と墜落を見届けてきた森貴俊氏。今、チームに起こっていること、そしてこれから進むべき道を、再建の願いを込めてつづってもらった。 文=森貴俊(東海ラジオアナウンサー) 谷繁元信監督兼選手、
小笠原道大、
和田一浩……球界に金字塔を打ち立て、ドラゴンズに多大な貢献をしてきた選手たちが次々に現役生活にピリオドを打った。若い選手からすると高くそびえるカベであった。同時に崩れないカベでもあった。そして強じんなカベの強さが、このチームの黄金期を支えた。
ベテラン選手にとっては己の肉体の限界、そしてそれ以上に、ドラゴンズが抱える世代交代。その空気、流れを汲んだ決断になったのも事実だと思う。
若い選手たちはこの2年、つらい現実を目の当たりにした。
大島洋平はこう話す。
「2011年までのチームと今のチーム。正直、違いはすごく感じます。違いを挙げれば切りがない。取れたはずの1つのアウトが取れない。そこからつながれて失点とか、細かいプレーができない。強かった時代と比べると1つのアウト、1点を取る、野球の頭の良さが今は足りない」
もちろん、これに集約されるわけではない。大島の言うように挙げれば切りがない敗因はあるだろう。重い口調で大島は続けた。
「チームとしての戦い方もあるが、大事なのはまず、個人。個の力を上げていくことです。僕自身もそう。今、必要なのはみんながもっとがむしゃらに自分のレベルを上げる。それが集まって強いチームになるはずです」
つい、われわれはあの時代と比較をしてしまう。それは意味があるのかと疑問に思うこともある。
荒木雅博はこう話した。
「例えばダブルプレー。自分の体の中で、もう一つ動きを速くできる感覚が残って、マズイって思いながら二塁へ送球しても、井端(弘和、現
巨人)さんはそれを瞬時に感じてカバーしてダブルプレーにしてくれた。今年、自分の中ではっきりさせたのは、そのときと今を比べるのをやめること。比べてもしょうがない」
確かにそうだ。ないものはない。それが現実。ならば作り上げていくしかない。
ファンは貴重なお金と時間を使い、球場に足を運ぶ。声援を送る最高の対価は“勝利”である。この方程式はずっと変わらない。勝利にほど遠いプレーにはスタンドから野次が飛ぶ。それも当然。小笠原は引退会見でこう話した。
「つらいときにファンの方々の声援が足を一歩前へ運ばせてくれた」
比べられる重圧、自分のふがいなさ、次世代を担う選手たちは、それを受け止め、前に進もうともがいている。
チームを去るベテラン選手たちは多くの財産を残した。そういった財産を間近で体感してきたはずだ。来シーズン、言うまでもなく目指すは頂点、体感の時期は終わりを告げた。来季はグラウンドで“体現”する時期だ。結果が出ないときは若い選手に勝利と等価の成長を見出してほしい。
新生竜はこのオフ、ネクストステージへ向かう。
PROFILE もり・たかとし◎1976年4月13日生まれ。愛知県出身。元競泳50mバタフライ日本記録保持者。名古屋学院高、青学大を卒業後、2000年に東海ラジオ放送に入社。スポーツアナウンサーを務め、ドラゴンズ戦中心のガッツナイターやJリーグ、マラソンなどの実況を担当している。現在はJ SPORTSのホームページにおいて「【野球好きコラム】【
中日好き】」を月2回、好評連載中。