無死一塁で投手はセットポジションの構えです。そのとき投手は、両手を合わせたグラブを2、3度動かしましたが、とたんに球審はボークを宣告しました。 球審のボークの宣告に疑問はありません。セットポジションの規則である8.01(b)にはこうあります。
「投手は打者に面して立ち、軸足を投手板に触れ、他の足を投手板の前方に置き、ボールを身体の前方に保持して、完全の動作を静止したとき、セットポジションをとったとみなされる。この姿勢から、投手は、[1](略)、[2]打者への投球に関連する動作を起こしたならば、中途で止めたり、変更したりしないで、その投球を完了しなければならない」 さらに同規則の[注3]には
「投手がセットポジションをとるにあたっては、投手板を踏んだ後投球するまでに、必ずボールを両手で保持したことを明らかにしなければならない。その保持に際しては、身体の前面ならどこで保持してもよいが、いったん両手でボールを保持して止めたならば、その保持した個所を移動させてはならず、完全に身体の動作を停止して、首以外はどこも動かしてはならない」 とあります。つまり、いったん保持した両手を動かしたら、それは投球動作の開始で、それでも投げなければ投球動作を中断したとみなされ、ボークになるのです。
85年6月13日の
巨人対
ヤクルト(福井)で、ヤクルト先発投手のビーンは4回、一塁に
松本匡史を置いてセットポジションをとったとき、ヘソの前でグラブをしきりに動かしてボークを宣告されました。
3回まで巨人をパーフェクトに抑えていながら、4回に先頭の松本に三塁線へセーフティバントを決められ動揺したためか、こんな初歩的なミスをしてしまったのです。ビーン投手はこの85年に来日し、8試合に22回1/3を投げ、1年で帰国しましたが、ボークはこの1個とは、本当に不注意なボークでした。