無死走者一塁で打者は中前に浅い飛球を打ちました。中堅手は前進し捕球態勢に入りましたが、一塁走者がほとんどリードしていないのに気づくと、ボールをグラブに当て前に落とし、すぐ拾って二塁ベース上の遊撃手に送り、さらに一塁へ送られ併殺としました。これに対し、攻撃側の監督は故意落球であり、アウトになるのは打者だけだと抗議がありました。 併殺は成立します。故意落球の規則である6.05(l)にはこうあります。
「0アウトまたは1アウトで、走者一塁、一・二塁、一・三塁または一・二・三塁のとき、内野手がフェアの飛球またはライナーを故意に落とした場合。ボールデッドとなって、走者の進塁は認められない」 適用されるのは内野手が故意に落とした場合であって、外野手には適用されません。75年までは確かに、内野手、外野手を問わず、フェアの飛球またはライナーを片手または両手で触れたあと、地面に落とせば、故意落球でした。しかし、76年から規則は現在のように改正され、対象が内野手に限られるようになったのです。
同年開幕前のキャンプ中の改正規則説明会でこれを聞いた阪急の
上田利治監督は「よし、ウチはやるで」と、練習を始めました。同年の開幕間もない4月17日の
日本ハム戦(後楽園)でこのトリックプレーを使いました。
8回裏の日本ハムの攻撃、一死一・二塁で
加藤俊夫が中前小飛球を打つと、
福本豊中堅手はボールをグラブに当てて、わざと落としたのです。すぐ拾って二塁ベース上の二塁手の
マルカーノに送球しましたが、慣れぬプレーにマルカーノも慌てたのでしょう。初めに二塁ベースに立っていた
小田義人にタッチした後ベースを踏めば併殺となるのに、ベースに触れてから小田にタッチしたのでは、一塁走者封殺で小田は進塁の義務がなくなります。せっかくのトリックプレーも成功しませんでした。