今季、低迷したチームにあって、エース・岸孝之の獅子奮迅ぶりは際立っていた。ノーヒットノーランも達成するなど、チームを勢いづけようと必死になった。まさにエースの働き。それが結果となって表れたのが最高勝率のタイトル獲得だったのだろう。岸のターニングポイントとなるかもしれない今季をじっくりと振り返ってもらった。 取材=上岡真里江 写真=内田孝治 年を重ねての獲得は成長した証拠
──初のタイトル獲得、本当におめでとうございます。
岸 ありがとうございます。
──最高勝率は、
西武ではだれ以来かご存じですか?
岸 分からないです。松坂(大輔)さんは、最多勝とかそっち系なので……だれでしょう。西口(文也)さん、丈さん(
石井丈裕)?
──西口投手です。1997年に15勝5敗で獲得なさいました。常々、岸投手は西口投手を「目標」だとおっしゃっていますが、同じタイトルを取れたということで感じることなどはありますか?
岸 「やっと追いついた」ではないですが、西口さんは数多くのタイトルを獲得しているので、「やっと、そのスタートラインに立てた」という感じです。
──8年目での初タイトルという点は、どのように受け止めていらっしゃいますか?
岸 若さで取ったのではなく、年を重ねて取れたというのは、成長した証拠なのかなと思います。
──まして、今年は開幕前から「何か1つはタイトルを取りたい」とおっしゃっていました。狙った上での獲得はお見事です。
岸 まあ、確かに言いましたが、実際はやってみないと分からないですからね。ただ、最終的に本当に取れるところにきたので、「言っといてよかったな」と思いましたね(笑)。
──どの時点から、本格的に「取れそう」だと意識を?
岸 もう本当に最後の最後ですね。最後に
オリックスに完封して13勝目を挙げ(9月23日、京セラドーム)、その権利を得たところでやっと「取れるんじゃないかな」と思いました。
──そこからは、「何が何でも取りにいく」との思いが、一気に加速した感じでしたか?
岸 はい。だから、もう先発はしないという選択をしました。どうしても欲しかったので、最後は中継ぎに入って、確実に負けがつかない状況で投げましたが、相談した大先輩と「やっぱりなんか違うな」という話にはなりましたね。
──やはり、最後にもう1試合先発するかどうか、相当悩みましたか?
岸 相当悩んでいたんですよ。あと1試合投げられる。でも、負けたらもう絶対にタイトルは取れない。だから、大先輩に電話して、「先輩だったらどうします? どうしたらいいですかね?」など、いろいろ話をしました。でも、以前から「やっぱりタイトルが欲しい」という話をしていたので、その約束を果たすためにも、最後は先輩の「それなら投げるな」の一言で「先発はもうやめる」と決めました。
──深いお話ですね。
岸 でも、その先輩との話の中でも「自分の力で取りにいったらどうだ?」という意見も、やっぱりあったんですよ。もう本当に自分でも迷っていましたね。
──となると、実際取れた今としては、もう1試合投げて取りにいってみても良かったかなと?
岸 いえ、それはないです。負けたら終わりですから。あのとき、金子(千尋)さん次第というか、次の日(9月24日)、菊池(雄星)が金子さんと投げ合って、もし金子さんに負けがついたら、僕が確定だったという状況でした。結果、菊池が負けましたけど、あいつもそれを分かっていて、すごく良いピッチングしてくれて。僕の気持ちも分かった上での、あいつのそういう姿勢が、本当にうれしかったですね。
──ご自身はもちろん、大先輩、菊池投手など、いろいろな方の思いがたくさん詰まった、価値あるタイトルなのですね。
岸 菊池も良いピッチングをしたのに、「負けてすいません」って謝ってきましたからね(笑)・・・
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