週刊ベースボールONLINE

日本球界の未来を考える

第69回 集まらない「侍」

 

選手の“出し渋り”を防ぐルールも検討すべき


 3月の欧州代表戦(10日、11日=東京ドーム)に出場した野球日本代表“侍ジャパン”に、日本ハム大谷翔平広島前田健太楽天則本昂大ソフトバンク攝津正ら各球団のエースが出場しなかった。2月末のメンバー発表の席で、小久保裕紀監督は「若手中心の選考」と語ったが、半月後の開幕を控えた大事な時期でもあり、各球団がエースの供出に難色を示した結果なのは想像に難くない。

 侍ジャパンの国際試合は、2017年春に予定されているワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を見据えた強化が目的だ。その主旨から言えば、2年後のWBCで主力となるべく大谷、則本ら“若手”が招集されなかったのはおかしい。大谷に関しては、日本ハムから「3年間の育成プログラムがあり、それを尊重したい」という説明もあった模様だ。

欧州代表に1勝1敗の侍ジャパン。各球団のエースがユニフォームを着ることはなかった[写真=小山真司]


 プロ野球が公式戦を最優先するのは、至極当然だ。決して単なる1試合ではないリーグ開幕戦をエースで飾りたいという気持ちも、理解できないものではない。だが、侍ジャパンについては、12球団が「積極的に協力して盛り立てる」という合意がなされていたはず。常設化された侍ジャパンを中心としたビジネス展開については、主にパ・リーグの球団が主導して立ち上がったという経緯もある。今後も各球団それぞれの主張がまかり通るのが当たり前となれば、小久保監督の目指している「その時点の最強チームを作る」ことは永遠にできない。

 開幕直前の代表戦は、各球団にとって悩ましいイベントであることは間違いない。メジャー・リーグ機構(MLB)主催のWBCでさえ、開幕直前という開催時期がネックとなり、メジャーの各球団が主力級を出し渋っている。現状で国際試合をマッチメークできるのは、春とシーズンオフの秋だけ。最初から分かっていたこととはいえ、対外試合を軸と位置付けている侍ジャパンは大きなジレンマを抱えている形だ。できるだけ選手や球団に負担がない代表戦の時期、多彩なカードの創出など、これからさらに知恵を絞る必要がある。

 サッカーの場合、代表招集に関する国際サッカー連盟(FIFA)のレギュレーションが定められている。FIFAカレンダーで「国際試合」とされているものについては、クラブは選手の各国・地域代表チームによる招集に応じなければならない。「親善試合の場合は48時間前にクラブの拘束が解かれる」──など細かい規定があり、基本的にはクラブが代表戦への選手供出を拒むことができない。最高の選手による最高のパフォーマンスが、国際的なサッカー人気を支えている。

 これから発展と真のグローバル化を目指す野球は、選手の“出し渋り”を防ぐために、サッカーのようなルールも検討すべきだ。国際試合を権威づけるためには、国際野球連盟(IBAF)やMLBを巻き込んだレギュレーション作りが不可欠。まずは、代表ビジネスの先駆者となった日本球界全体が覚悟を共有しなければ意味がない。

 何よりも「代表に選ばれることは名誉」という意識を選手、球団に浸透させることが大事だろう。トップクラスのプレーヤーが代表入りにあこがれるようにするためには、どうすればいいのか。「選ばれ損」という環境と当事者の感覚が払拭されない限り、侍ジャパンのステータスも確立できない。
日本球界の未来を考える

日本球界の未来を考える

週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング