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第93回 殻を破れ!――近視眼的な発想から脱却を、求められる球団トップの胆力

 

 阪神梅野隆太郎が8月21日のDeNA戦(京セラドーム)で、7月11日以来となるスタメンマスクをかぶった。2回に砂田毅樹から先制の2点タイムリーをたたき出すなど打者として活躍し、捕手としても緩急のある好リードで岩田稔の7勝目をサポート。チームの連敗を3で止め、首位陥落の危機を救った。

 プロ4年目の24歳。和田豊監督は開幕前に「今年のテーマは、梅野を正捕手にすること」と公言したが、思惑どおりにはいかなかった。ピンチになればなるほど単調なリードになり、相手打線の狙い打ちとなる悪循環。一軍定着はならず、二軍暮らしが続いていた。

 新たな正捕手の確立は、各球団とも頭の痛い課題だ。投手との絡みもあり、何よりも必要なのが経験。阪神だけではなく、巨人の2年目・小林誠司ら期待の正捕手候補がことごとく苦労している現状を見れば、各チームとも育成に指導者の労力と時間が必要となる。

 阪神と巨人のような人気球団にしてみれば、重要ポジションの発展途上の2人を、いかに勝ちながら育てられるかが大事で、最大のジレンマともなる。優勝を争う好位置につけ、プレッシャーも半端ではない環境下でのプレーは、間違いなく本人にもチームにも今後への大きな財産となる。

「ウチは勝たなければならない球団。残念ながら、育成を優先する余裕はない」

 あるセ・リーグ球団の首脳陣が漏らした言葉だ。人気球団としての自負があればあるほど、その思いは強いだろう。現場の監督、コーチにしてみれば、1年ごとに結果を出さなければならない。いかに情熱があろうと、勝利を犠牲にしてまで育成を優先することはできないのが現状だ。

トラの扇の要に定着へ期待がかかる梅野。特に難しい捕手の育成。トップの胆力が必要だ[写真=前島進]



 理想は分かっているが、首脳陣は若さゆえの稚拙さを我慢する余裕はない。球団トップは高額年俸の外国人や、フリーエージェント(FA)やトレードなどで実績のあるベテラン選手を獲得して、その見返りとして有形無形の圧力をかけてくる。球団を支えたベテランについては、たとえ力が衰え出したとしても、人気重視で起用を願う。現場としては、次の世代へスムーズにバトンタッチさせる発想は、二の次にならざるを得ない。

 12球団でひときわユニークなのが日本ハム。ドラフト戦略を基盤にした若手育成プログラムを前面に押し出し、チームが常に旬の戦力となる方針を貫いている。チームのバランスを優先し、まだ一線級で活躍できる主力選手のトレードさえ厭わない。球団トップが数年後を見据え、極端な戦力不足に陥るシーズンがないよう世代交代を図っている。

 日本ハムをはじめ、パ・リーグはチームづくりに革新的な面が目立つ。一方、セの特に一部球団は、まだ一握りの主力人気に頼る旧来の形態に縛られているかのように見える。全盛期に球界を支えた味のあるベテランの活躍は、プロ興行の見どころでもあり、ないがしろにすべきではない。だが、近年のセ、パの実力差は、これらチーム作りの哲学の差とも無関係ではないように思える。

 親会社の株主など利害関係者の顔色や、メディアの意見に左右されるなら、近視眼的な発想から脱却できない。オーナーをはじめ、球団経営に携わるトップの胆力が必要だ。
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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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