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第94回 強いソフトバンク――大型補強だけに終わらないバランスのあるチーム作り

 

 パ・リーグのペナントレースを独走するソフトバンクが、2連覇へと着実にマジックナンバーを減らしている。8月5日の日本ハム戦(ヤフオクドーム)で延長サヨナラ勝ちを収め、今季初のマジック「38」が点灯。その後も攻守で安定した戦いぶりを見せている。10年以降、3度目の優勝は間違いなく、まさに黄金時代だ。

 強さの理由は、質量ともにバランスのいい戦力がそろっていることに尽きる。打線では史上8人しか達成していない打率3割、30本塁打、30盗塁の「トリプルスリー」を視野に入れた柳田悠岐をはじめ、柳田とともに本塁打王争い上位に位置する松田宣浩李大浩、そして8年連続3割を目指す内川聖一らが名を連ねる。投手陣では、自身初となる2ケタ勝利をマークした武田翔太、2年連続の30セーブをクリアしたデニス・サファテら、一人のスター選手に頼らない日替わりヒーロー続出の土壌が強みだ。

 12球団トップの年俸総額50億円という資金投下も、しっかりと結果につながっている。過去の巨人阪神など注目を集める球団、そして「40億円補強」をしたとささやかれるオリックスなど、大型補強をした球団は、大半が失敗に終わっている。実績のある有名選手や外国人選手への必要以上の厚遇は、若手や他選手へ物理的にも心理的にもなにがしか影響。チームのバランスを崩してモチベーションを落とす元凶となっていたが、ソフトバンクに限ってはそんな心配はなさそうだ。

 今年から指揮を執る工藤公康監督のタクトさばきも、うまくはまった。昨年、秋山幸二前監督が突然の辞任を発表し、続投を想定していた球団は慌てた。人気OBであり、選手としても実績のある工藤氏への監督依頼は必然だったが、リーダーシップに疑問を投げ掛ける声が一部にあった。遠慮のない発言も多いかつての名選手が、主役である選手をもり立てることができるのか。だが、フタを開けてみると、杞憂だったことが分かった。

工藤新監督の見事な手綱さばきも、その強さを後押ししている[写真=湯浅芳昭]


 新人監督にありがちな自我を前面に押し出すこともなく、いい意味で無色透明。選手を感情的に扱うことがなく、勝ち方を知っている大人のチームが実力を発揮できるムードを作り出すことがうまい。ある球団幹部は「工藤監督の指導力には、正直びっくりしている」と、元スター選手の変貌ぶりに驚いている。

 2011年から導入した「三軍制」も、ペナントレースでの戦力アップに貢献するようになってきた。三軍は主に育成など支配下登録外の選手で構成。16年からは福岡県筑後市を二軍と三軍の本拠地とするなど、ファーム組織はソフト、ハードの両面で12球団をリードしている。今シーズン途中、育成の釜元豪細山田武史が支配下選手として登録。近年では飯田優也牧原大成千賀滉大らが育成からはい上がっている。三軍制を基礎としたシステムの構築は、ファーム選手のレベルアップとなり、一軍選手の危機感をあおっている。「育成選手を大事にしたい」と公言する工藤監督の方針も、選手を立ち止まらせない全体の活性化につながっている。

 大型補強だけに終わらない、バランスのあるチーム作りがソフトバンクの強さの基盤。その手法は、今後の球界に向けての一つのモデルケースとなりそうだ。
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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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