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なぜ日本人野手との大型契約が生まれないのか?

 

メジャーリーグへの移籍を目指す鳥谷。日本球界を代表する野手に対してオファーが届くのか注目が集まる(写真=BBM)



過去の日本人野手との大型契約がトラウマに


 メジャーリーグもシーズンオフに入り、フリーエージェント(FA)市場が動き始めてきました。

 先日アリゾナ州フェニックスで、メジャーリーグのGM会議が行われました。複数の球団の方と話をしても日本選手の評価は依然として高い事も確認出来ました。しかし、ここ数年大型契約を勝ち取っているのは投手ばかりです。約10年前に比べ日本人野手の評価はとても低いのが現実です。

 先日、成績や年齢を元にフリーエージェント(FA)選手のランキングが発表されました。(日本では海外フリーエージェントではない選手も含まれております)

 カンザシティ・ロイヤルズの青木宣親選手が15位、イチロー選手が80位、アスレチックスに所属していた中島裕之選手は最下位の165位、チームの人気者で地元ファンも多い川崎宗則選手は残念ながらランク漏れでした。

 一方の投手のランキングを見てみると、黒田博樹投手が15位、大リーグ挑戦は未定ですが、前田健太投手は14位、金子千尋投手が30位となりました。今オフに契約が切れた選手でもレッドソックスの上原浩治投手は2年総額で約20億円、カブスの和田毅投手は約4億5000万円で早々に再契約を結び、相変わらずの日本人投手の需要が高い事が分かりました。

「最大の補強ポイントは、ショート」名手デレク・ジーターが引退したヤンキースのキャッシュマン・GMも後任探しに着手すると宣言をしました。しかしそこで日本人野手(内野手)の獲得に動くかといえばそうではないと思います。メジャーリーグでの二遊間の市場はとても限られていて、またチームの柱となる人材をこの2つのポジションにおきたいと、どのチームも考えているからです。

 先日、阪神タイガース鳥谷敬選手がメジャーリーグに移籍をすると宣言し、また彼は代理人として敏腕代理人のスコット・ボラス氏と契約を交わしました。

 ボラス代理人はアメリカでの球団探しの条件として「シーズンを通し、レギュラーで試合に出られる事」を第一条件で交渉を試みているそうですが、私は契約までには時間が掛かると思います。場合によってはどの球団も獲得をしないこともあり得るのではないかと注目しております。

 ではどうして日本人野手の評価が低いのでしょうか? 走塁、守備の評価は高いですが、以前に契約を交わした松井稼選手や福留選手らが数十億規模の大型契約を結び鳴り物入りで入団をしながら、打撃で結果を残せなかったトラウマが各球団の大型投資を思いとどまらせているのです。

 私の球団でも日本人野手の獲得はほとんど話題に出ないのが現状で、私は球団GMに日本人野手の評価として「日本とアメリカではグラウンド、試合日数、文化が違う。数年に渡ってレギュラーで出場する事は不可能」と報告をしております。

 2001年にメジャーリーグ初の日本人野手となったイチロー選手を筆頭に、メジャーリーグでプレーをした野手はわずか14人のみで、その中で規定打席で打率3割以上を残した選手はイチロー選手、松井秀選手の2人だけです。

 また20本塁打以上の記録を残したのは松井秀選手だけなのです。日本人野手は2008年に最多の8人がプレーをしましたが2014年は3人のみ。カンザスシティ・ロイヤルズで29年振りのワールドシリーズに出場をした青木選手はメジャーリーグ移籍時に「入団テスト」を受けさせられましたが、今では理想の2番打者として評価をされております。

 もし鳥谷選手がメジャーリーグに移籍をした時に、走塁、守備ではメジャーリーグでも通用すると思いますが打撃はかなり厳しいと感じており、またボラス代理人が望むレギュラーで長期の大型契約も厳しいのではないでしょうか。私も球団へ報告する中で「日本人選手は、今は投手の方が評価が高い。ただ市場は常に動いているので継続的な調査を進めます」と報告をしています。ただ、近い将来に日本人野手の誰かが大きな結果を出せば、この流れは変わると思います。

大谷選手は野手、投手どちらの評価をしているか?


 先日の日米野球でも話題にあがっていた選手は、北海道日本ハムの大谷選手です。現在は投手、打者として活躍をしていますが、我々の球団では投手としての評価しかしておりません。それは大谷選手の体格からも分かるように非常に恵まれていて、高いリリースポイントから角度があると投球を投げる事が出来るからです。

 しかし先日の日米野球の投球をみていても球は速いが、現段階では成熟していないと私は評価をしています。しかし20歳でのマウンドさばきやアグレッシブさとポテンシャルは文句のつけようがありません。

 あの若さであれだけハードに投げられるのもすごいですが、打者に対して少しも恐れずに投球をしていたのが良かったと思います。あの年齢でボールをプレートの上に投げ込むことができるというのは、実は最も大事なことで、もちろん球速はあったほうが良いですが、私は大谷選手のセカンダリーピッチ(速球以外)の投球も素晴らしいと感じています。

 その中でも特にスプリットが印象的でした。90マイル(約144キロ)のスプリットを投げられる投手はメジャーリーグでもあまりいません。今はまだ全体的にコントロールが良くありませんが、経験を積んで自分の思うところに速球や変化球を投げられるようになれば、手がつけられない選手になるのではないでしょうか。

著者PROFILE
1950年代生まれ。現役を引退後、MLBスカウトに転身。全米だけではなく日本球界にも太いパイプを築き、スカウティング活動に余念がない。
現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウト「メジャーリーグレポート」

現役MLBスカウトによる連載コラム。スカウトならでは視点で日米の選手をジャッジするほかMLBについても語る。

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