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▲4月16日のカブス戦では、8回2安打無失点の好投。本拠地初勝利となる今季2勝目を挙げた



4月4日のブルージェイズ戦で初登板初勝利。試合後のスタジアムでインタビューに応じる昨季、前人未到の24連勝を成し遂げた田中将大が、ついにメジャーでベールを脱いだ。4月4日のブルージェイズ戦でデビューを果たし、その5日後にはオリオールズ戦で本拠地初登板、そして16日のカブス戦で2勝目を飾った。対戦した選手、味方の捕手、投手コーチは田中のSFFをどう見たのか。それぞれのコメントと併せて紹介する。
文=樋口浩一 写真=AP

 ヤンキースの田中将大が4月4日のメジャー初登板、9日の本拠地初登板とも7回、3失点と上々のスタートを切った。4日は勝利投手。相手のブルージェイズ、ジョン・ギボンズ監督は「彼は本物だ」と称賛した。9日は勝敗こそつかなかったが、粘り強い投球を見せ、対戦したオリオールズのバック・ショーウォルター監督は「評判どおりの投手だ」と脱帽。さらに、「スプリットが素晴らしかった」と加えた。

 実際、オリオールズ戦では、スプリットを大いに活用してピンチを切り抜けた。この試合、田中は2回に九番スクープに先制3点本塁打を喫した。甘く入ったスライダーを左翼ポール際に運ばれたものだ。ヤンキースはその裏、2本塁打で1点差と追い上げる。直後の3回、二死一、二塁のピンチを招いた。反撃ムードに水を差してはいけない。絶対に追加点は許せない場面だ。ここで六番のネルソン・クルーズに対し、カウント2―2からキレ味鋭いスプリットで空振り三振に打ち取った。

 5回には一死一塁で昨季本塁打と打点の2冠に輝いたクリス・デービスを迎え、1球目、2球目ともボールとなる。打者は一発狙いにくるカウントだ。ここで田中は2球続けてスプリットでともに空振り。最後は93マイル(約150キロ)の速球で見逃し三振に仕留めた。

「変化の鋭い、いいスプリットを投げる。それに、彼はピッチングを知っている」と、デービスはスプリット自体もさることながら、その使い方の巧みさが印象的だったようだ。
 デビュー戦で対戦したブルージェイズのエドウィン・エンカーナシオンも「スプリットのコントロールの良さが目立った。ストライクも取れるし、ストライクからボールにして空振りを誘うこともできるようだ」と感心した。

 公式戦で対戦した打者は、スプリットを操る田中の投球に才能を感じたようだが、もちろんスプリットそのものが優れていることは間違いない。今オフの田中争奪戦に参加したダイヤモンドバックスのスカウトの評価では、田中のスプリットは満点。世界最高水準とされていた。実際、スプリング・トレーニングではヤンキースのチームメートから驚きの声が上がった。

 捕手のブライアン・マキャンはブルペンで受けて「テーブルから物がストンと落ちてくるような落差だ。それに、速球を投げるときとフォームが変わらないので、打者は相当手こずるだろう」と言った。また、打撃練習で対戦した若手のオースティン・ロマインは「見たこともない変化だ」と、目を白黒させていた。

 ロマインの反応は大袈裟ではあるけれど、無理のない面もある。実は現在のメジャーでスプリットを投げる投手は少ない。打者にとっては馴な染じみのない球種なのだ。

 スプリットはフォークボールをアレンジしたもの。フォークが球を深く挟むのに対して、スプリットは浅く挟む。フォークは球の回転がなくなり、大きく落ちる。一方スプリットの場合、落差はそれほどでもないが、スピードがあり、打者の手元でわずかに落ちる球である。

 脚光を浴びたのは1980年代であった。タイガースの投手コーチやジャイアンツの監督を務めたロジャー・クレイグが「フォークよりも投手のヒジに負担をかけない変化球」として取り入れたものだ。

 代表的な使い手に、アストロズのマイク・スコットがいる。凡庸な投手だったがスプリットをマスターすると85年からエースに変身。翌86年にはサイ・ヤング賞も受賞した。スライダーは60年代の魔球と呼ばれたが、スプリットは80年代の魔球であった。

 ところが、スコットもそうだがスプリットを使う投手は次々と故障に見舞われ「やはりヒジに負担がかかる」と認識された。打者から見ると、スプリットはチェンジアップよりもさらに速球との見分けが難しい。それだけ有効ではあるが、メジャーでは故障のリスクを避けることが重視され、おかげですっかり影が薄くなったのだ。レイズやツインズのように、若手に投げることを禁じている球団もあるほどで、アメリカのプロ野球の育成段階では目にする機会は少ない。もちろんメジャーでもスプリットを容認する者もあるが、あくまで少数派。いまメジャーで常に投げるのは、ドジャースのダン・ハレンなど、ごくひと握りの投手だ。

 例外は日本人投手である。ヤンキースの黒田やレッドソックスの上原は39歳になったいまでも、故障の元凶として避けられているスプリットを抵抗なく投げている。上半身で投げる外国人投手には不向きなのかどうか。正直なところ、はっきりした理由は分からない。とにかくメジャーの投手はほとんど投げなくなったため、日本の投手には大きな武器が与えられたことになる。

 その日本の投手ならではの魔球を引っ提げ、田中はメジャーで投げて行く。ただ、相手も黙っているわけではない。メジャーの打者にもプライドがある。「これから何度も顔を合わせていく中で、お互いを知っていくだろう」。オリオールズのデービスは、今後の対決が楽しみだと言わんばかりの笑顔を浮かべていた。

▲4月4日のブルージェイズ戦で初登板初勝利。試合後のスタジアムでインタビューに応じる

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