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月間打率.400 菊池涼介の打が覚醒した理由

 


6月は全試合安打。球団記録に迫る月間打率.400

 菊池涼介は型にはまらないプレーヤーであり、それが大きな魅力だ。それでも“守り”を主にした選手であることに、異論の余地はない。

 しかし、6月はバットで魅せた。高橋慶彦が79年7月に残した月間打率.440の広島球団記録には及ばなかったが、12球団トップタイの.400。9連敗を喫するなどして最下位に沈んだ交流戦を含む6月の18試合すべてで安打を放った。

「芯に当てるだけ。無欲です」のシンプルな思考が奏功している。

 気持ちの持ちようが違う。昨季は入団2年目にしてセカンドに定着して1シーズンを戦い抜いた。その中で「ヒットを打たなければいけない。エラーをしてはいけない」という思考が自身を苦しめていた。

 しかし、今季は「思い切って打席に入れるように配慮してもらっている」と言う。制約が多い「二番」という打順でも持ち味の「思い切り」を発揮できるのは、野村謙二郎監督から送られた言葉を頼りにプレーできているからだ。

「サインが出ていなければ、どんなシチュエーションでも余計なことは考えず、自分の打撃をしてくれ」

 奔放なプレーぶりから責任感とは無縁だと見られがちだが、本質は違う。自分に求められる役割を見極め、それを全うしようと努める能力は高い。任務を遂行できなければ、それを自分の力不足と認め、補う努力をするのが菊池涼介だ。「その一言が大きかった」という強過ぎる責任感から解放させた指揮官の言葉だった。

 もちろん、技術的な裏付けもある。昨季リーグワースト2位の121三振を喫した反省から、オフには新井宏昌打撃コーチの指導で右打ちの技術向上を目指した。狙いは「右打ちをするためにはボールを呼び込まないといけない。つまり、ボールを長く見ること」(新井コーチ)にある。

 どんな体勢からでも送球できる“忍者”と称される守備でも効果を発揮する体軸の強さとリストの強さをより生かす“インサイドアウト”のスイングを手に入れた。事実、三振の数は6月を終えて69試合で38。シーズン79個ペースと格段の改善を見せている。

 打撃論を語るとき、「僕には基本がないから」と多くを口にしないが、一つひとつの積み重ねが実を結び、打撃の“型”が出来つつある。誰もが認める守備力に加えて打撃面でも開眼した「二番セカンド・菊池涼介」が、チームの軸として機能し始めた。
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