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第33回 統一球騒動その後――確立しつつある安定供給の体制

 

 日本野球機構(NPB)は6月23日、プロ野球の一軍公式戦で使用する統一球のメーカーからの納品前検査を行った。ミズノが中国の上海工場で生産した1200ダースの中から6ダースを抽出し、第三者機関の日本車両検査協会(車両検)で反発係数を計測。平均は0.417で、0.4034〜0.4234の規定内だった。NPBは同2日と16日にも、それ以前に生産した2つのロット(製品単位)の抽出検査も車両検でしており、基準値内だったと発表している。NPBの井原敦事務局長は「メーカーの努力もあり、安定供給の体制が確立しつつある」と語った。

 国際球に近づけるなどの目標のために2011年から導入された統一球を巡っては昨年、NPBが主導して公表のないまま飛びやすく仕様変更し、当時の加藤良三コミッショナーが引責辞任するなどの大騒動となった。今春から新たに元東京地検特捜部長の熊崎勝彦氏をコミッショナーに迎えてガバナンス(組織統治)強化等に乗り出したが、開幕直後に統一球の平均反発係数が基準値を上回っていた問題が発覚。調査の結果、冬場の乾燥糸をゴム芯に強く巻き付けたためにボールの硬化を招き、飛びやすくなっていた事実が判明した。

 今回は意図的な操作が絡んではいなかったが、管理を手がけるNPBはもちろん、特に世界でも随一の技術力を誇るミズノにとってはダメージとなった。水野明人社長が「管理能力が不足していた」と謝罪したが、牛皮や羊毛糸など天然素材を多用する統一球のバラツキをなくすことは、現実問題として至難の業だ。2度にわたる騒動を経て、ミズノは社の威信を懸けた品質管理に励み、その姿勢が現在の結果として表れてきているのだろう。

 そんな“いわくつき”の統一球だが、海外では評価が高い。国際野球連盟(IBAF)では、2年前から同仕様のミズノ製ボールを公式球として認定。傘下の国際大会等で使用している。また、キューバの国内リーグでも同スペックのボールを導入。採用した理由は関係者によると「コスト面でのメリットもそうだが、最大の利点は品質が均一していること」だ。

 メジャー・リーグ機構(MLB)の使用球は、1社による独占供給だ。だが、レンジャーズのダルビッシュ有をはじめ、日本からの選手は「ボールの形や縫い目の盛り上がりも、一つひとつ違う」と口をそろえる。皮のなめし方も違うため、日本の統一球よりもメジャー球の方が滑りやすいと言われる。そのバラツキになじむことが、メジャーでの成功の近道でもある。

 メジャーでは近年、投手がヒジなどを壊して腱移植手術をするなどのケースが増えた。関係者によると「それらの因果関係を、ボールの特性をはじめ、マウンドの硬さ、日程の問題などいろんな角度から検証している」という。そんな中、安定した品質を保っている日本の統一球のノウハウに並々ならぬ興味が持たれているという話もある。

 NPBでは16年シーズンで使用する統一球メーカーについて、ミズノだけではなく、内外の複数企業を競い合わせて決定する“コンペ方式”を採用。今秋にも候補の絞り込みに入る予定だ。内規では「現状の感触からかけ離れておらず、選手が違和感を持たないこと。年間を通じての品質管理に長けていること」が選定条件となっている。果たして、ミズノ以上の技術力を提示することのできるメーカーがあるのか、注目される。

▲4月に公開された車両検による統一球テスト風景。現在は規定内のボールが安定して供給されている[写真=井田新輔]

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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