週刊ベースボールONLINE

 

着実にステップアップを遂げる3年目左腕が、今季プロ入り初勝利を挙げた。その後も先発ローテーションに組み込まれ、首脳陣の期待を受けながら登板を重ねている。白星を大きく伸ばすことはできていないが、首位を争うチームでマウンドに上がる経験は、左腕をさらに大きくするに違いない。
取材・構成=菊池仁志、写真=毛受亮介、佐藤真一

母に手渡しできたウイニングボール


7月16日のDeNA戦[マツダ広島]に先発し、5回4失点でプロ初勝利。ウイニングボールは「母に手渡しました」[写真=湯浅芳昭]


──今季は7月16日のDeNA戦(マツダ広島)でプロ入り初勝利を挙げました。

戸田 内容は別にして、初めて勝てたということには、本当に喜びを感じました。うれしかったです。

──先発して4回まで無失点でしたが、5回に4失点で同点とされ、その裏に味方打線に勝ち越してもらっての白星でした。

戸田 試合の流れの中で、5回の4失点は絶対あってはいけないものでした。ましてや3ランで一気に同点までされてしまったんで、勝った喜びは別物として、内容には反省しかありませんでした。

──1点を返されて、二死一、二塁のピンチで打者は筒香嘉智選手。長打だけは打たれてはいけない場面での本塁打でした。

戸田 「このバッターにホームランだけはダメだ」という意識はあったんですが、あとアウト1つというところで、そちらへの意識が裏目に出てしまいましたね。ホームランの前のフォアボールにも悔いが残ります。あれがなければ試合展開がまったく違うものになっていたと思うので。

──しかし、その裏に攻撃陣が2点を挙げて勝ち越し。6、7回にも加点して、11対7の勝利でした。

戸田 初勝利の可能性はまだあると思っていたので、とにかく打ってほしいという気持ちで祈りながら見ていましたけど、やっぱりうれしかったです。

初勝利を挙げた試合では4点のリードを5回に追い付かれた。写真は筒香に浴びた同点3ランのシーン。この経験も成長の糧とする[写真=湯浅芳昭]


──ウイニングボールはどうされましたか。

戸田 母に渡しました。偶然にもその試合を兵庫から見に来ていたので、試合が終わった後にご飯を食べに行って、そこで。喜んでもらえて良かったです。試合を見に来たのは、たしか、僕が初先発した試合(12年9月12日、対巨人=東京ドーム)以来だったと思います。広島での試合でもちょっと遠いですから、そんなに来ることはないんです。偶然ですが、母が見に来た試合で勝つことができて良かったと思います。

──初勝利の後、先発登板が続いています。昨年までと比べて、自身でどのようなところに成長を感じていますか。

戸田 一番は試合への入り方ですね。去年までと違って落ち着いて入れるようになったと思います。去年までは結果が欲しかったこともあって、立ち上がりから全然、腕が振れていませんでした。結果だけを意識し過ぎてちょっとおかしくなっていたんですけど、今年は結果は置いておいて、自分のベストを尽くそうと考えるようになりました。それによって、いつもどおりのピッチングが出せるようになってきていると感じます。

──意識の部分以外に、試合前のルーティンを変えたようなことはありませんか。

戸田 ルーティンはまったく変わらないというか、僕はルーティンっていうほどの決まり事がないんです。そういうことを意識せずにやっているつもりです。試合の前に「これをやって、次はこれ」ってやっていると、それだけにとらわれてしまうので、それが僕はイヤなんですよね。そういうのがないように、先発する試合の前もみんなといつものようにワイワイしゃべったりしています。「先発するぞ」って感じでいたくないんです。思いつめずに、リラックスして試合に入りたいですから。

──それでもどこかでスイッチが入りますよね。

戸田 それは試合前のブルペンですかね。マウンドに上がる時間を逆算して、ホームなら試合開始の30分前、ビジターなら20分前からキャッチボールを始めますが、そのあたりから集中していきます。それまではただのおしゃべりです(笑)。先発だからって気を使われるのも好きじゃないですし、みんなも普通に接してくれるんで、そっちの方が落ち着いて試合に入れるんですよね。

乗り越えるべき、5、6回のカベ


──8月7日の中日戦(ナゴヤドーム)は6回1/3を投げて2勝目を挙げましたが、その前は5回、6回で粘り切れない登板が続きました。

戸田 (7月23日の)ヤクルト戦(神宮)にしても、5回までは1点でいっていたんですけど、同点の6回に勝ち越しのホームランを打たれてしまいました。その試合は先制点も許してしまいましたし、先発として、先にリードを許してしまうことが一番に反省することですね。

──1対1で一死走者なしで打者はバレンティン選手。カウントが2─0となり、本塁打を警戒しないといけない場面でした。

戸田 バレンティンに対してはその前の打席がフォアボールで、次はもう1回勝負していこうという中で打たれてしまいました。その点の自分の甘さです。

──打たれたのはスプリットですか。

戸田 そう見えますよね。チェンジアップなんですけど、僕のは球速が140キロ前後出るんですよ。多分、相手のバッターもスプリットだと思っているんじゃないですか。MAXだと142キロくらい出ます。このボールはこのボールで、真っすぐの腕の振りからちょっとだけ動くので、使えるボールだと言ってもらっています。

──使い勝手がいいから、不利なカウントから選択したわけですよね。

戸田 2ボールだったので、真っすぐを狙いにくるところでチェンジアップで芯を外せれば、という考えで投げたんですけど、詰めが甘かったです。ただ、カウントを取れる球種であることは確かですね。

──そのほか、先発で投げていく中で見えてきた課題はありますか。

戸田 ピッチングの軸は真っすぐになるんですが、それが悪いときの対処ですよね。真っすぐが走らないとファウルや空振りが取れず、苦しくなるので、そこをどうにかしたいです。すべての球種にキレが必要です。

──カーブでストライクが取れるようになったことは進歩と言えるのではないでしょうか。

戸田 それはあります。去年まではカーブを投げている感覚がなかったんです。どこに行くのか、自分でも半信半疑で投げていたんですけど、練習を続けていたら狙ったところにいくようになったんで。緩い球でカウントを取れるようになったことは、大きな進歩です。

──何かきっかけがあったのでしょうか。

戸田 いや、投げていく中で分かってきたっていう感じです。カーブについては全然、前と違うんで、そこは成長した部分ですね。

二軍にいても意識は一軍


──樟南高から広島に入団して3年目、順調にステップアップしているように見えます。

戸田 1、2年目はファームでは良くても、上ではまったく通用しないという状態でした。それはレベルの違いがイメージできていなかったからなのですが、その差が埋まってきたことが一番です。今季は5月までファームでしたが、その間も一軍で投げるイメージを持って取り組んできました。たとえブルペンで投げるときでも、一軍の打者に投げたときにどうなるかを考えていましたね。結果だけを見て“良し”とするのではなく、どういう内容で勝負できたかを考えるようにしていました。

──意識の部分の成長が大きいということですが、球団発表で181センチ72キロの体型は、まだまだ鍛える余地がありそうです。

戸田 体重は今、70キロで、そこから全然上がってこないです。太らない体質なんですよね。それが一番の悩みです。夏場だからといって、食事量が落ちることもないんですけど。

悩みは太らない体質。身体が出来て上がってくればさらなる活躍も期待できる


──うらやましいですが……。

戸田 太れる方がうらやましいですよ。歳を取ったら変わってきますか。

──30歳を過ぎると……。

戸田 僕、30歳から太っても、遅過ぎるんですけど(笑)。

──夏場を迎えて、大事な時期が続きます。野村謙二郎監督は前半戦を終えたときに「救世主に出てきてほしい」とコメントしました。思うところはありませんか。

戸田 そうおっしゃったことは知っていますが、僕が何かを思うことはまったくないです。自分のことだけで精いっぱいなんで、与えられた仕事を全力でやっていくだけです。

──23年ぶりの優勝を目指すチームでプレッシャーはありませんか。

戸田 それもありませんよ。僕、プレッシャーを感じることがないんですよね。プロに入って一軍で納得できる投球ができた試合がまだないので、もっと良い結果を残すために、自分のピッチングをすることに集中するだけです。

──それでは、今季の残りのシーズンに向けた意気込みをお願いします。

戸田 自分が与えられたチャンスで結果を出すだけです。それがチームに貢献できることにもなるので。自分ができることを精いっぱいやっていきたいですね。

PROFILE

とだ・たかや●1993年6月10日生まれ。兵庫県出身。181cm70kg。左投左打。樟南高から12年ドラフト3位で広島に入団。1年目はファームで4勝2敗の成績を残すと、9月12日の巨人戦(東京ドーム)で初登板初先発。昨年は一軍で3試合に登板した。今季、7月16日のDeNA 戦(マツダ広島)でプロ初勝利。今季成績は12試合登板2勝1敗0H0S、防御率3.35(8月18日現在)。
プロスペクトインタビュー

プロスペクトインタビュー

各球団の将来を担う若手有望株へのインタビュー。現在の不安や将来への希望が語られます。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング