週刊ベースボールONLINE

大学野球リポート

「本気になった人間は何でもできる」。早大・小宮山次期監督の大学時代の同僚が示した成功体験

 

チーム全員で喜んだ努力の男の「1勝」


2019年1月1日付で母校・早大の監督に就任する小宮山悟氏。大学時代に唯一、練習量で負けを認めるのが、同級生の大沢明氏(写真)である


 1989年4月25日。小宮山悟氏は、平成元年の春季リーグ戦を鮮明に覚えている。

「狂喜乱舞した!!」

 1勝1敗で迎えた早大−法大3回戦。先発した早大の4年生右腕・大沢明(熊谷西高)が前年秋まで3連覇中(同春も優勝し4連覇)だった法大打線を、6安打1失点に抑えて完投勝利。早大として法大から13季ぶりの勝ち点を挙げた白星は、大沢にとってリーグ戦初先発初勝利(通算4試合目)であった。

 当時の早大主将は、絶対的エースの小宮山氏。「大沢が怒ったのを一度も見たことがない」という温厚な性格で、同級生の中では「アイドル」(小宮山氏)的な存在だったという。努力の男の「1勝」を、チーム全員で喜んだ。

 小宮山氏は芝浦工大柏高から2浪の末、第1志望の早大の門をたたいた苦労人だ。入学後も努力を重ねてワセダのエースを手にし、ドラフトでロッテ1位指名を受けたまさしく「練習の虫」である。その小宮山氏が「一番、(練習を)やったつもりでしたが、横にすごいのがいた」と明かすのが、大沢氏だった。

「下級生は打撃投手をやるんですが、大沢はケージの中にボールが入らない(苦笑)」

 つまり、捕手も捕球できない大暴投の連発だった。3球ボールが続けば即交代、という暗黙のルールがあった。打席に立つ先輩の重圧に耐えられなかったようで、小宮山氏も「言葉がかけられない。重い空気が流れた」と回顧する。対照的に小宮山氏は当時から制球力抜群で、ノーコンに悩んだことは皆無だという。

 並の精神状態ならば脱落してもおかしくない。しかし、大沢氏はあきらめなかった。ストライクが入らない分、とにかく、グラウンドを走った。

「当時、東伏見(安部)球場の左翼後方では馬術部が活動していたんですが、投手陣は馬に負けないくらい走っていた。馬と競争させられていた。大沢は泥にまみれて走っていた」

 馬と対等に渡り合えるほどのスタミナを構築する中で3年秋、同春から指揮を執る石井連藏監督は、強肩の大沢氏を右翼手で起用。早慶戦でも、2試合に先発している。

 外野を経験したことでスローイングが修正されたのか、大沢氏は4年春に再び投手に戻った。それが冒頭での快投であり、春2勝、秋は3勝を挙げ、1回戦・小宮山氏に次ぐ2回戦の先発投手として有終の美を飾ったのだ。

「大沢には相当、助けられた。見いだした石井さん(監督)もすごいです」(小宮山氏)

 石井監督は当時、大沢氏をこう評価している。

「よく走り込み、よく投げ込んでいました。真剣にやっている人が活躍するのは、いいことです」

「OBには一人でも多くグラウンドに戻ってきてほしい」


 平成時代最後となる31年1月1日、小宮山氏は母校・早大の第20代監督に就任する。すでに11月11日から特別コーチ(次期監督)として現場で学生を指導しているが、元プロが言う指示はシンプル。練習あるのみだ。

「石井さんから厳しい指導を受けてきて、いろいろなことが、自分のプラスになる学生時代だった。一日が無事に済んでくれ!! と(苦笑)。戦いでしたから……。今も心の拠りどころとなっているのはソコ(練習量)。今の学生に通用するかどうかは分からないが、経験してきたことを伝える。ガムシャラにやっているヤツが、最後の勝負どころでは勝つ。学生たちに聞けば『日本一』という目標を軽々しく口にしますが、天地を引っ繰り返すほど取り組まないとダメ。本気ならば、本気を見せろ!! ということです」

 そこで「生きた教材」として、小宮山次期監督が期待を寄せているのが大沢氏だという。大沢氏は11月11日、小宮山氏の練習指導初日も安部球場へ、大学時代の仲間と激励に訪れた。小宮山次期監督は「大沢に限らず、OBには一人でも多くグラウンドに戻ってきてほしい。学生たちにゲキを飛ばし、社会でどんな活躍をしているか話をしてほしい。『早稲田大学野球部』という金看板にいたことを、卒業してから気づくのではなく、在学中に気づかせる」と、歴代OBの訪問を大歓迎する。

「本気になった人間は、何でもできる」

 大沢氏が4年間で示した成功体験だ。当時の先輩や後輩の証言を交え「特別ミーティング」を実施する可能性もあるという。練習はウソをつかない。平成が終わりを告げ、新時代になっても、努力は決して裏切らないのである。

文=岡本朋祐 写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング