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筒香嘉智に内角勝負は間違った選択だったヤクルトバッテリー【伊東勤のプロフェッショナル配球考】

 

ひと振りで仕留めてチームを勝利に導いた筒香/写真=井田新輔


外角一辺倒の配球でもOK


 今回は4月21日に行われたヤクルトDeNA(神宮)から取り上げたいと思います。ヤクルトは序盤の最大3点差を守れずに延長戦に持ち込まれ、迎えた10回表でした。

 秋吉亮投手と中村悠平捕手のバッテリーは先頭打者の大和内野手から空振り三振を奪い、筒香嘉智外野手と対戦することになりました。初球、スライダーで見逃しストライクを取ります。中村捕手が外角に構えたミットよりは中に入ってきたスライダー。甘いなとは思ったのですが、筒香外野手は狙い球と違っていたのか、バットをピクリとも動かしませんでした。

 そして2球目、中村捕手は内角にミットを構えました。その瞬間、私はどんな球種を要求するのであれ、「インコースはダメだ」と思っていました。選択した球種は初球で待っていないと判断したのか、同じスライダーでした。秋吉投手はヒザ元の悪くないところに投げ込みましたが、筒香外野手が一枚上でした。これを非常に巧みにとらえられ、右翼席に特大のホームランとされました。結局、この1点が決勝点で、ヤクルトバッテリーには痛恨の1球になりました。

 なぜ内角球を要求した配球がダメだったのか――。

 筒香外野手は本調子ではなかったにしても、球界を代表するホームランバッターです。制球を誤れば即、長打を浴びるリスクをはらんでいます。しかも秋吉投手は精密な制球力を持っているとは言い難い投手です。ここは打たれても単打になる確率が高いアウトコースがセオリーと言えたでしょう。外角一辺倒の配球でも構わないところです。

 そうやって慎重にいった結果、四球を与えたとしても得点されるわけではありません。試合はリードされても取り返せるような序盤ではなく、1点勝負の延長戦に入っているのです。捕手が内角球で、あわよくばファウルを誘って2ストライクに追い込むなどという色気は出してはいけない局面でした。

やや淡白で詰めの甘いリード


 左打者の筒香外野手との勝負を避けたとしても、後続はロペス内野手、宮崎敏郎内野手と手強いバッターが続くのですが、右腕の秋吉投手にとっては有利な右打者との対戦となります。この試合ではそれまで筒香外野手に1、8回と計2四球を出していましたが、ここもそれで良かったのです。外角中心の配球で仮に左翼へホームランされたとしても、それこそ完全に筒香外野手の力を称えるしかないだけで、バッテリーとしてはやるべきことはやった配球といえ、同じ打たれるにしてもチームに残るダメージは全く違うものになっていたはずです。

 今季、ヤクルトは小川淳司監督ら首脳陣を一新し、最下位に低迷した昨季からの巻き返しを狙っています。シーズン序盤の戦いぶりは昨季との違いを示すため、DeNAなど昨季の上位チーム以上に大きな意味を持っています。

 戦力的には特に投手力が弱いだけに、捕手はリードでカバーすることが求められています。逆に言えば、捕手の腕の見せどころでもあるのです。しかし、今季がプロ10年目、27歳の中村捕手はやや淡泊で詰めが甘いリードが散見されます。2015年にはリーグ優勝を経験し、ベストナインに輝きました。強肩などいいものを持っており、日本代表に選ばれているように球界屈指の捕手になれる資質があるのですが、リード面の成長でいまひとつ殻を破れないところを感じます。

 9回表に1点差を守れず、10回表にはあっさり勝ち越し点を献上したこの試合は、それが端的に表れていたのではないでしょうか。勝てる試合を落としただけに、今季も同じように下位に低迷するようだと、悪い意味でシーズン序盤のターニングポイントだったと振り返る試合になる可能性さえあります。


圧倒的な力を持つ打者の存在


 一方でDeNAはこの試合をものにし、首位に浮上しました。昨季のクライマックスシリーズではセ・リーグ3位から同2位の阪神、リーグ優勝した広島を破り、日本シリーズに進出しました。日本一を逃したとはいえ、圧倒的な強さで日本シリーズに進んだソフトバンクをヒヤリとさせもしました。

 1998年以来のリーグ制覇へ向け、今季は絶好機が訪れているように感じます。その後はなかなか白星が伸びませんでしたが、4月中に首位に立って昨季からの勢いをチームとして確認できたことは後々、生きてくるかもしれません。

 勝ち方も良かったですね。優勝するチームは圧倒的な力を持つスラッガーがいることがままあります。DeNAでは筒香外野手がそうなりうる存在です。この試合でも並の打者ならファウルなどになっていたであろう、秋吉投手の難しい内角のスライダーを見事にスタンドに運び、その力を見せつけました。中村捕手のリードを、結果的に配球ミスにするだけの高い技術でした。

 DeNAにとって筒香外野手は「打つべき人」です。野球で打つべき人が打てば、チームは勢いづくものです。ベンチの盛り上がり方を見ても、よく分かります。セで最も遠ざかっているリーグ優勝を果たせるかどうかは、筒香外野手のバット次第と言っても過言ではありません。そのことを再確認させられた試合でした。

 筒香外野手は相手にとっては打たせてはいけないバッターに位置付けられます。今後もなかなか、まともに勝負してもらえず、我慢の打席を強いられていくと思います。しかし、粘り強く、この試合のように数少ないチャンスをものにしていけば、同試合の終了時に.259だった打率も上がってくると思います。そうすれば自然に本塁打、打点はついてくると見ています。

 セ・リーグは広島がやや抜けているとはいえ、混戦になっています。傑出した1人の力がペナントレースの行方を左右するかもしれません。そういう数少ない存在である筒香外野手の打棒はやはり目が行ってしまうところですね。

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