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セ・リーグは1強5弱。広島に死角が見当たらないわ【岡田彰布のそらそうよ】

 

2連覇をしている広島ナインは、3連覇に向けて気のユルみもないはずやわ。それにしてもほかのチームは……/写真=早浪章弘


楽しみな夏の甲子園。酷暑だけに水分補給はしてな


 このコラムを皆さんに読んでいただいているころ、夏の甲子園が始まっている。そう、夏の甲子園100回記念大会である。またこの季節がやってきた。ホンマ、楽しみで仕方ない。朝からずっとテレビの前に……。これが何日も続く。それが楽しい。

 100回目を刻んだ夏。その中の1回にオレも甲子園の土を踏んでいる。岡田彰布、15歳の夏……って感じやね。北陽高の1年生。オレは11月生まれやから、15歳で甲子園(第55回大会)に出ているわけよ。

 当時、甲子園への道は遠く、険しいものやった。特に大阪大会は激戦区で、私学7強……がシノギを削っていた。これを勝ち抜く厳しさ。本大会以上とも言われたレベルの高さの中、オレは1年生からゲームに出してもらった。大阪大会決勝はPL学園高よ。その春にセンバツにも出ていた北陽高は、確かに強かったと思うで。どちらが勝っても不思議ではないといわれた決勝で、北陽高はPLを圧倒。甲子園への道をこじあけた。

 そして本番……。2回戦からの登場で、相手は秋田高。オレは「七番・レフト」で先発出場。その後、桑田(桑田真澄=元巨人ほか)や清原(清原和博=元西武ほか)が1年生で活躍しているけど、あの当時、1年生レギュラーはほとんどいなかった。そんな15歳のオレは、甲子園のグラウンドに立ち、周りを見渡せば「とんでもなく広い……」という印象しかなかった。甲子園のスケール、甲子園の魅力にハマった。フワフワした気持ちの中での2回戦、初戦。秋田高に1対0で勝ち。さらに3回戦は高鍋高(宮崎)。ここで北陽高のエースが快挙を達成した。3年生エースの有田(有田二三男)さんがノーヒットノーランよ。1対0で勝ったんやけど、ホンマ、守っていてシビれたわ。

 これで勢いに乗って……と思った準々決勝の今治西高(愛媛)戦。スコアは2対6やったかな。負けてしまった。悔しかったけど、オレは1年生。また来年や……と心に決めていた。岡田彰布、15歳の夏は9打数3安打で終わった。

 しかし、残る2年間、甲子園はホンマ遠かった。甲子園の土を踏むことはできなかったわ。それでも、かけがえのない3年間を過ごすことができた。涙を流し、泥にまみれ、汗まみれになった3年間。ここで築いた絆は、今も強く結ばれている。北陽高野球部の仲間とは今なお定期的に会い、そして昔話に花を咲かせている。こういうことが高校野球の魅力なんやろな。みんな、60歳になったけど、会えば昔の顔に戻るわ。これがいいんよ。たまらなく懐かしくなる。

 今、甲子園のあり方が議論されている。酷暑の中での運営方法など、昔とは違った問題が発生している。そういえば、オレらは水など飲まなかったもんね。今では考えられないようなことよ。やはり甲子園も時代の流れに沿って、変化していくしかないやろ。イニングの合間に水分補給を十分にして、試合間隔をとったりするスケジュール調整。とにかく事故のないように……。そして、その中での全力プレーを。100回目の夏、オレは球児にそれをお願いしたい。

気のユルみが生じれば……。今の広島にはそれはないな


 さて、球児に甲子園を明け渡し、阪神は長期ロードに出ているが、セ・リーグのペナントレースは早々に決着したのか? まさに1強5弱である。広島だけが貯金を増やし、2位以下がすべて借金状態。ホンマ、こんなかたよった現象も珍しいね。8月1日のゲーム結果が出た時点で広島と2位の差が2ケタとなり、最下位の阪神とは13ゲーム差……。ウ〜ン、ナニッ、13ゲーム差ってか。オレはすぐに13ゲーム差に反応してしまう。

 そらそうよ。今から10年前、13ゲーム差をひっくり返された経験がある。ということは……13ゲーム差といっても、セーフティリードではないということか。今の広島の状況と同じような、あの当時の阪神やった。あらためて振り返ってみると、誰もがリーグ優勝すると信じて疑わなかった。オレもそうやったよ。口には出さなかったけど、心の中では「いける」と思っていた。ところが9月に入ったところやったかな。球団も「優勝、優勝」と口にし始め、内部でも、コーチ陣が選手に平気で「優勝できるぞ」と言葉に出し始めた。

 オレはこのとき、ハッとしたわ。同時に「ヤバイ」と思った。みんなが思っていても、口に出し、言葉にすることで、そこにユルみが生じる。それが大いに気になった。チームとして何が怖いか。それは緊張感が薄れ、集中力が散漫になり、その気にユルみ。これがプレーに影響しないわけがない。

 前にも書いたけど、苦しい戦いの中、連続してサヨナラ勝ちしたことがあった。この劇的な勝ちは勝ちよ。でも、本来の阪神の勝ちの形とは、まるで違っていた。だからオレは心の中では、危険なシグナルを感じていたわ。

 そこから巨人に追いつめられる。阪神は5割の戦いを続けていたにも関わらず、巨人の追撃はそら、すさまじいものやったわ。13ゲーム差が10ゲームを切り、そこからは一気に詰められた、明らかに風向きは変わっていた。あのとき……生じたユルみを元に戻すことはできなかった。歴史に残るV逸。そのど真ん中にいたオレは、野球というものの怖さを思い知った。

 果たして今季の広島。このままスンナリといくかどうか。13ゲーム差でも引っくり返るとして歴史上の事例があるのだから、危険性はゼロではない。でもね、あのときと決定的に違うのは、追うチームに“強さ”がないことよ。巨人のようなあのときのチームが、今はない。さらに広島は手堅い。そして2年連続で優勝しており、心の乱れも生じない。心の中で、2008年の再現を期待しているが、探して探し抜いても、広島の死角は見当らないのである。(デイリースポーツ評論家)

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