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巨人・マルティネスの衝撃的デビューを見て思い出した。圧倒的スピードを誇った元メジャー・リーガー【堀内恒夫の多事正論】

 

来日前、メジャーで通算2547安打、182本塁打、397盗塁をマークしていたデービス/写真=BBM


 またまた外国人選手のことを書くことになった。ここ2回、初登板、初先発で初勝利を挙げたヤングマンを褒め、支配下登録されてすぐに一軍昇格し、初先発初勝利を挙げたC.C.メルセデスを絶賛した。もう、おなかいっぱいと思っていたら、巨人にはまだ新しい戦力がいた。ゲレーロカミネロも不振、マシソンも左ヒザ痛で抹消と、外国人選手に予想外のアクシデントが続いている巨人だが、ヤングマン、メルセデスに続いて、J.マルティネスが現れた。支配下登録即スタメン出場、初打席でホームランを打ち、劇画のようなデビューを果たした。巨人にはこんなすごい選手がまだいたのかと、あらためて驚かされた。

 左打席でのバッティングはパンチ力がありそうだが、左打席よりも右打席のほうがバットの出方がスムーズで、当たる確率は右のほうが高いのではないだろうか。二塁の守備はゴロを正面で捕ろうとする姿勢がいい。ただ、初ホーマーを打った直後の試合で4打席4三振したように、三振も多そうだ。日本の投手はウイークポイントを見つけると、そこを徹底的に攻めてくる。マルティネスが一軍で長くやっていけるかどうかは、今後の対応力次第。それと故障で二軍調整中のヤングマン、マシソンの回復、ゲレーロ、カミネロの復調次第というハードルもある。そのときに首脳陣を迷わせるような活躍をし続けてほしい。

 ところで、マルティネスの衝撃的なデビューを見ていたら、私が現役時代に出会った中で、最も印象が強い選手の顔が浮かんできた。かなり昔の話になる。半世紀近く前のことだ。入団6年目、巨人のベロビーチキャンプの一員として参加した。そのとき、実際に体験した衝撃的なシーンがある。ドジャースとのオープン戦、打者が一塁へゴロを打った。王(王貞治)さんが捕った。ややベースから離れていたから、私がマウンドから一塁ベースカバーに入る。プロの投手としては当たり前のプレーだ。しかし、私の後方から走ってくるはずの打者がいない。何と、その打者は一塁カバーに入った私を追い抜いて、すでに一塁を駆け抜けていた。こんなこと、それまでの、そしてその後の野球人生でも経験したことがない。あんなに足の速い選手、後にも先にもお目にかかったことがない。ウィリー・デービス(当時ドジャース)。バリバリのメジャー・リーガーだった。

 デービスはその後、1977年に中日にやってきた。全盛期は過ぎていて、翌年クラウンライターへ移籍して、その年限りで帰国したが、その年にも衝撃的なことをやってのけた。5月14日、巨人戦(ナゴヤ)でのランニング満塁本塁打だ。右中間のフェンスに当てた打球をセンターとライトが追う間に、あっという間に4つのベースを、風のように駆け抜けた。当時の堀江忠一マネジャーが「ヤツは塁間を9歩で走ったぞ」とベンチで叫んでいたのを思い出す。デービスは「満塁では初めてだけど、ランニングホーマーはメジャーで10本は打ってるよ」と言っていたというから、彼にとっては特に珍しいことでもなかったようだ。あのスピード感。今でも強烈な印象を残している。ヤングマンにも、メルセデスにも、そしてマルティネスにも、野球界に強烈なインパクトを残すような選手になってもらいたい。

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