日本中を熱くさせる夏の甲子園。間もなく終わりを迎える平成の時代にも心に刻まれる名勝負が生まれてきた。その中から編集部が20試合をピックアップ。高校球児たちが紡いだ筋書きなきドラマを振り返ってみよう。 【平成元年】大越、838球の力投も実らず
帝京高2-0仙台育英高(第71回大会決勝) 
力投する大越。豪快なフォームから最速147キロ。ガッツポーズも見せた
帝京高との決勝に挑んだのは、大会前、「元木(
元木大介。元
巨人)に勝って優勝したいです」と語った剛腕・
大越基(元ダイエー)がエースの仙台育英高だ。3年春のセンバツでは準々決勝で上宮高(大阪)と対戦し、元木に本塁打を浴びるなど5失点を喫して敗れていた。
大越は3回戦から魂の4連投。準々決勝では上宮高を10対2でリベンジ。元木は1安打のみに抑えた。さらに、前日の準決勝・尽誠学園高(香川)では延長10回、167球を投げ切る完投勝利。当時、深紅の優勝旗の北限は栃木県の作新学院高。ついに優勝旗が「白河の関」を越えるのか、と注目された。
迎えた決勝は帝京のエース・
吉岡雄二(元近鉄ほか)との息詰まる投手戦となり、0対0のまま延長戦に突入した。勝負が決したのは延長10回表一死二、三塁だった。帝京高の三番・鹿野浩司が大越から2点タイムリー。その裏に反撃できず、「白河の関越え」は、またもお預けとなった。大越は、この大会全6試合に完投し、通算838球を投げ抜いた。
【平成3年】延長16回、幕切れは痛恨の押し出し死球
松商学園高4x-3四日市工高(第73回大会3回戦) 
最後、右肩に当たった松商学園高・上田は痛みをこらえ左手でガッツポーズ
あまりに残酷な幕切れだった──。春夏連続出場、しかもセンバツでは準優勝を飾っていた名門・松商学園高と、初出場の四日市工高の3回戦は、四日市工高が5回に河本成司の2ラン本塁打で先制し、さらに2安打に盗塁を絡め3点を取れば、松商学園高も7回に3連続四球から長短打で3点を取り追いつく。
以後、8回からは松商学園高の右腕・
上田佳範(元
日本ハムほか)、四日市工高の左腕・
井手元健一朗(元
中日ほか)の見応えある投げ合いとなり、両チームともにゼロ行進が続く。
延長戦も互いに塁は埋めるが、なかなか得点にはつながらず、回が進む。迎えた延長16回裏だった。一死二、三塁から四日市工高は満塁策、四番・上田との勝負を選択した。4回のヒット以後、5打席連続凡退の上田だったが、井手元が投じた初球、「インローを狙った」というこの試合232球目が、上田の右肩へまさかの死球。うずくまった上田だが、その後、左手で上田がガッツポーズ、井手元はマウンドに崩れ落ちる。明暗が分かれたラストシーンだった。
【平成4年】星稜高・松井秀喜、5打席連続敬遠
明徳義塾高3-2星稜高(第74回大会2回戦) 
松井は5打席の敬遠にも、ほとんど表情を変えることなく、淡々として見えた
名勝負ではない。事件だ。大会屈指の超高校級スラッガーが、最後の夏にまさか一度もバットを振ることなく、甲子園を去るとは……。
2回戦、明徳義塾高と星稜高の一戦は、甲子園史上例のない異様な雰囲気となった。星稜高の主砲、この夏までに59本のアーチをかけ、“ゴジラ”のニックネームもあった
松井秀喜は、1年夏に甲子園デビューを果たすと、2年夏に初本塁打、3年春には1試合2本のアーチを含む、3本塁打と大暴れ。この夏、さらなる伝説が期待されていた。
この希代の強打者に対し、熟練の指揮官、明徳義塾高・馬淵史郎監督が選んだ戦略は、前代未聞の全打席連続敬遠だった。第1打席二死三塁、第2打席打席では一死二、三塁。ここまでは球場の雰囲気も特に荒れていたわけではない。しかし3打席、4打席と続き、徐々にザワザワとし始める。
第5打席は、明徳義塾高が3対2でリードした9回裏、二死三塁。ここでも敬遠だ。客席から罵声が飛び交い、物が投げ込まれて試合が一時中断。試合は明徳義塾高の勝利となったが、校歌は「帰れ」
コールでかき消された。
【平成6年】決勝九州決戦のラストは満塁弾!
佐賀商高8-4樟南高(第76回大会決勝) 
決勝の満塁弾を放った佐賀商高・西原。手前で樟南高・福岡がうずくまる
高校野球史上初、九州勢同士の決勝。満員に膨れ上がった甲子園は異様なまでの熱気に包まれた。
夏は5年ぶり11度目の佐賀商高と、同3年連続10度目の樟南高(前年までの鹿児島商工高から校名を変更していた)。ともに初の決勝進出だが、下馬評では、4季連続甲子園出場で優勝候補の一角でもあった樟南高が圧倒的に優位だった。
勢いに乗って勝ち進んだ佐賀商高だが、不安はエースの峯謙介。1回戦から1人で5試合を投げ抜いた疲労はピークに達していた。案の定、制球が定まらず、2回裏につかまり3点を先制された。それでも6回表に佐賀商高は、主将・西原正勝の二塁打など3連打とセーフティーバントなどで3対3に追いつく。その裏、樟南高が1点を取ったが、佐賀商高は8回表に追いつき、振り出しに。
迎えた9回表二死満塁だった。佐賀商高の西原は、福岡真一郎が投じた初球をフルスイング。これがレフトスタンドに飛び込む史上初の決勝満塁弾。その裏は、峯がきっちり3人で抑え、初優勝を飾った。