
キャンプ中も率先して笑顔でチームを盛り上げていた藤川。ウオーミングアップのときには新助っ人のガンケルとペアを組むなど気遣いもしていたのが印象的だ
阪神と再契約をした後、それまで以上に外国人選手と積極的に言葉を交わし、柔和な笑顔で接する
藤川球児がすごく印象的だった。そのことをインタビュー時に聞いたことがある。
「アメリカでプレーして、マイナスに感じる文化の違いや、認識の違いの部分がすごく気になりました。それを経験し、小さいヤツらやなあ、情けないな、と思うこともあったんですよ。僕自身、それがすごく苦痛でもあったからこそ、そういうふうな人間にはなりたくない、と強く感じた。だから彼ら(外国人選手)には日本でそういう思いをさせたくないな、と」
現在、アメリカでは人種差別問題が再燃している。向こうで暮らしたことのある日本人なら、何かしらの差別を受けたり、そう感じたりすることはあると思う。それは白人からのものだけではなく、さまざまな人種から受けることがある。それをどう感じるか……自分も同じように差別をするのか……。自分がイヤだと思ったことは、他人にしないと思うのか……。
藤川は後者だったからこそ、あの笑顔があった。さらに藤川自身、アメリカに行くまでは、阪神に来る外国人には、そういう苦しみがある、ということは思ったこともなかったという。「もしかしたら、彼らも日本でそう感じた部分もあったのかもしれない」と語ってくれた。
そういう選手がチーム内にいることで、外国人とチームの潤滑油になれる。藤川がまさにそうだったと思う。多くのファンにたくさんの感動を与えてきたスター・藤川球児。彼の笑顔の奥には、アメリカでの苦痛を経験したからこその優しさがあふれている。
文=椎屋博幸 写真=BBM