「夏までに150キロを出せるように」

桐光学園高の146キロ右腕・中嶋太一(3年)は横浜高との神奈川県大会準決勝で8回1失点の好投。8回コールドで決勝へと導いた
意地でも、落とすわけにはいかない。桐光学園高の最速146キロの181センチ右腕・中嶋太一(3年)はマウンドで仁王立ちしていた。
桐光学園高は横浜高との決勝(5月3日)で、1回表に1点を先制した。その裏、打席には中嶋が「最も意識している」と語る一番で主将・安達
大和(3年)を迎えた。小学校6年時、ジャイアンツジュニアでチームメート。顔なじみであり、より力が入ったという。
カウント2ボール1ストライクからの4球目、痛烈なライナーがピッチャーを襲う。中嶋はとっさに反応し、体全体で受け止めた。「ものすごく手が痛かったです(苦笑)」。仮にこの当たりが安打となっていれば、試合の展開はどうなっていたか分からなかった。桐光学園高は3回に打者1巡の猛攻で5得点のビッグイニングと、完全に主導権を握る。中嶋は4回に内野ゴロの間に失点も、その後は安定感ある投球で8回1失点。強力打線を4安打に抑え、8回コールド(8対1)で決勝進出を決めた。
中学時代に在籍した世田谷西シニアでは全国大会優勝経験があり、現チームの主将を務める内囿光人遊撃手(3年)とともに桐光学園高の門をたたいた。しかし、1年時はヒジや肩の故障で戦力になれなかった。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた昨年の活動自粛期間中は、横浜高の148キロ左腕・
金井慎之介(東京城南ボーイズ出身)らと一緒に、河川敷で汗を流すこともあったという。
「キャッチボールをやりましたが、ボールが違うな、と感じました」
本格的な投球は活動自粛明け。2年秋からベンチ入りし、今春に本領発揮。4回戦まではストレートとフォークの2種類だったが、準々決勝でスライダーを解禁。同じ腕の振りで投げてくるため、打者の見極めは難しい。3月には、センバツを制することになる東海大相模高との練習試合で、真っすぐとフォークで5回無失点と自信をつかんだという。
城山高との県大会3回戦後に、中嶋は「春に大きく成長して、夏までに150キロを出せるようにしたい。春、夏としっかり活躍できて、目にとまることがあれば、プロに行きたい」と自身の進路について明かしていた。
監督は無欲を強調も
5月4日の決勝は、昨秋までに県大会5季連続制覇中の東海大相模高だ。桐光学園高にとっても19年春、秋と決勝で惜敗している因縁の相手である。準決勝で中嶋は8回で95球の省エネ投球。ブルペンには2年生右腕・針谷隼和も控えているが、連投ができるだけの練習を積んできた。桐光学園高・野呂雅之監督は、東海大相模高との対戦について「決勝の相手ということだけ。優勝に関しても、特に意識はない。ただ、決勝戦を戦うということ」と無欲を強調するのが、かえって不気味である。
チームとしては「全国制覇」が目標も、そこへ至るまでの過程として、中嶋は「春の目標は相模を倒して県大会優勝」と語る。チームを勝利へ導くために、腕を振っていく。
文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎