現在ア・リーグ三冠王にもっとも近いゲレーロ・ジュニア。大谷と打撃部門で争いながら、存在感を増している。MVP候補としても有望になってきている
現地時間6月1日、ブルージェイズのウラジーミル・ゲレロ・ジュニア、がマーリンズ戦で今季17号を含む4打数4安打3打点の大暴れ。この時点で、ア・リーグで17本塁打と打率.337が1位、45打点はトップと1点差の2位だった。
まだシーズンは長いが三冠王の射程圏内である。チャーリー・モントーヤ監督は「今球界で最高の打者の一人。手がつけられない状態。スライダーをレフトにホームラン、シンカーをライトにライナー。見ていて楽しいよ」と笑顔の会見だった。
彼はケタ外れのパワーで2004年にMVPに輝き9度オールスターに選ばれた殿堂入りの名選手ゲレロ・シニアの息子である。19年のデビュー時はトッププロスペクトとして注目されたが、123試合に出て打率.272、15本塁打で、新人王の投票では6位だった。20年も期待の割にパッとしなかった。それが今季は本領発揮。栄養学に詳しい個人トレーナーのジュニア・
ロドリゲス氏とオフに生活改善から取り組んだ成果だった。
早めの夕食でアル
コールはなし、たくさんの野菜と体に良い脂肪を摂るなど工夫して19キロの減量に成功、おかげで今季は体調が良い。加えて股関節や足首の柔軟性を高めるトレーニングで敏捷な動きも可能。一塁の守備では微妙なタイミングのときは股割りで両足を一直線に広げ、左手をいっぱいに伸ばして捕球、いくつもアウトを稼いだ。
試合前はストレッチを重点的に行うそうだ。「以前はできなかったことが今はたくさんやれる。素早く動ける。目指すはオールラウンドプレイヤー」と話す。私たちとしては気になるのは
大谷翔平との本塁打王争いである。ゲレーロは全試合出場中で、6月1日終了時点で227打席に立った。二刀流の大谷は打たない日もあるし206打席と不利だ。
一方で両者はアプローチが対照的で積極的にバットを振る大谷はスイング率50.4パーセントだがゲレーロは44.6パーセントとよく見ていく(ボール球に手を出す確率は大谷33.1パーセント、ゲレーロ24パーセント)。結果大谷はここまで16四球でゲレーロは32四球だ。さらに打球速度と角度から本塁打になりやすい打球を打った確率を示すバレル率については、大谷は打席あたり13.1パーセント、ゲレーロは10.5パーセント。平均の打球速度はゲレーロが94.8マイル(約152.2キロ)と大谷の92マイル(約148キロ)より速いが、打球角度はゲレーロが7.5度と大谷の17.2度より著しく低いからだ。
7.5度ではヒットは出るがホームランにはならない。打球の平均飛距離も大谷195フィート(約59メートル)に対しゲレーロが158フィート(約48メートル)である。つまり打席数の多さ、打者専任という点ではゲレーロが有利だが、アプローチで見れば大谷有利だと思う。いずれにせよ2人がシーズンを通して好調を維持し50本前後のハイレベルな本塁打王争いを繰り広げて欲しい。
と同時にMVP争いでも競って、チームにとって二刀流と三冠王ではどちらの価値が高いのか、全米の野球記者たちが’口角泡を飛ばす事態になれば楽しいな、と期待している。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images