3年前に創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。バックナンバーを抜粋し、紹介する連載を時々掲載しています。

中村オーナーが緊急会見

　今回は『1973年6月18日号』。定価は100円。
　
　球史、ただし陰の球史に残る1973年6月1日からの太平洋─ロッテ4連戦(平和台)を紹介するシリーズの最終回だ。

　3試合を終わって太平洋は1勝2敗と負け越し、最後の6月3日の試合前、
「優勝はあきらめんよ。ロッテだけは優勝させんぜ」
　と太平洋の稲尾和久監督。決死の覚悟で金田ロッテに挑んだ。

　太平洋先発は加藤初。体調は万全でなかったが、
「今さらここまできて、どこが痛いの、とか言っていられなくなった。何がなんでも投げなくては」
　と話していた。
　加藤はアルトマンに打たれ2点を先行されたが、そこからチームが逆転。3対2で勝利した。

　この日も太平洋ファンのロッテ・金田正一監督へのヤジは壮絶だったが、勝利もあって大きな騒ぎはなく終わった。

　ただ、そうは言っても試合後は同じ。球場周辺には変わらず暴徒が集まり、ロッテナインは3日連続で機動隊の出動者に送られて帰った。
　3日間で平和台球場に9万人観客が集まり、純利益は3600万円と言われる。“遺恨試合”は大成功と言えるだろう。

　試合終了後、2階の食堂で中村長芳オーナーが緊急記者会見をした。
「このロッテ4連戦にそなえ、球団代表以下職員は夜も寝ないで努力してきた。選手およびファンの安全対策のため全精力を傾けました。本日付け毎日新聞福岡版に私は異議を申し立てたい」

　ここで中村オーナーの声が一段と大きくなり、目が血走った。

「その新聞をご覧になっていない方のために一言付け加えるならば、球団対策ゼロという見出しは、私は、これに対しての名誉棄損の疑いを抱くものであります」

　その毎日新聞には今回の4連戦はたぶんに演出されたものであり、それに対し、ファンも予想以上に反応し、その警備対策について球団側に疑問点が残り、批判の声が出始めている、というものだった。

　さらに中村オーナーは前夜の金田監督も引き合いに出す。

「前夜、金田監督は球場を引き揚げるとき、警備中の警官に何と言ったか。“おまわりさん、ありがとう。税金を払っているんだからな”。世の中には言っていいことと悪いことがある。命懸けで選手を守ってくれている警官に向かって、なんという発言か。野球選手で、しかも監督としての許せないものがある」

　だが、実際には金田監督はこう言っていたという。
「おまわりさん、ありがとう。税金を払っておいて、よかったな」

　わずかな違いだし、どちらが本当かも分からない。ただ、会見の席の発言ではなく、ポロリともらした言葉に、オーナーが怒りを表明するというのは違和感がある。
　実際には、中村オーナーはある新聞に載った金田監督の自身への批判に怒っていたらしい。

「太平洋のやり方は、まずいものでも人を集めて食わしてしまえというやり方だ。人のふんどしで相撲を取ってばかりいるオーナーの考えそうなことだ」
　フェイクの中にもリアルがある。

　この騒動の真実が毎日新聞の記事どおりであることは知られているが、金田監督としては、巻き込まれて選手がケガをしたらたまらん、いい加減にしてくれ、というのを暗に言っていたのだろう。

　では、また。

＜次回に続く＞

写真＝BBM